大リーグと日本のプロ野球投手の投げ方の比較
肩、肘に負担をかけないで速い球を投げるために最も大事なポイント
①骨盤を速く回転させる
骨盤を回転させる原動力は、両足が地面から受ける力です。
骨盤が回転する仕組みは車のエンジンの回転に似ています。
クランクシャフトが骨盤、ピストンロッドが脚、シリンダーヘッドが足に相当します。
歩幅ストライドが大きめで、両足が同時に着地している時間がない場合は1気筒エンジンに例えられます。
1気筒エンジンの動く様子
以下、右投手の投球について説明します。
(歩幅ストライドが大きめで、両足が同時に着地している時間がない場合について、1気筒エンジンに相当)
右足で地面を強く蹴るほど、体はより速く直線的な運動をします。前足を着地して、体にブレーキをかけた時に得られる地面から受ける力で骨盤は回転します。
したがって、骨盤を速く回転させるには右足を強く蹴って、いかに体に急ブレーキをかけるかにかかってきます。
体に急ブレーキをかけるときに大事なのは体の重心と着地した前足の位置関係です。
重心が前に移動するその延長線上に前足を着地したときに、最も急ブレーキがかかり、前足が地面から大きな力を受けます。
前脚の膝を軽く曲げて着地し、地面を蹴って骨盤を後ろに押し戻すようなう動き(ジャスティン・バーランダー)
下の図は前足が地面から受けた力が脚を介して左股関節に伝わり、骨盤を押すことで骨盤が回転する様子を示しています。
左足を着地した瞬間は前足が地面から受ける力のベクトルと重心との距離rが0なので、回転力トルクは0で回転力はないのですが、左足を着地する前にあらかじめ体を回転しておけば、距離rがすぐに大きくなるので、急ブレーキがかかりさえすれば爆発的な骨盤の回転が得られます。
あらかじめ体を少し回転しておくには、投球時に左足を上げた時に背中が打者から良く見えるほど上体を捻っておく必要があります。
力とは何?
力とは何か、は深く考えるとよく分らなくなる奥の深い質問です。ここではあまり考えないことにしましょう。
ニュートンによる力の定義
物体が力を受けないでいるときは、
①静止している
②等速直線運動をしている
物体が力Fを受けると、加速度Aを生じる
これを式で表わすと、
F=MA M:物体の質量
ここで、力Fと加速度Aはベクトル量で大きさと向きを持っています。
したがって、加速度(ブレーキがかかる時は、減速となり加速するときとベクトルの向きは逆)の向きと力の働いている向きは同じです。
加速度とは速さが変化する、あるいは、速さは変わらなくても向きが変化する(例:等速円運動の場合)ことです。
つまり、速さや向きが変化している時には力を受けていることを意味します。
円盤(例えば、カーリングのストーン)が等速直線運動をしていて障害物に衝突するときを例にとって、ブレーキがよくかかる重心の位置と障害物の位置関係、円盤が障害物から受ける力について考察してみましょう。投球の場合は、円盤が骨盤に、障害物が前足に相当します。
重心の位置が良い場合、大きな力を受ける
重心の位置が悪い場合、小さな力しか受けられない
両足で立っている時の体の重心の位置
投球は右足一本で立っている姿勢から、左足一本でずっと立っていられる姿勢に変化します。
したがって、投球の最初は体が右側に倒れ、前足を着地する時は体が左側に倒れなければいけませんが、日本人投手の場合はそうなっていない場合が大半で、体がどうしても3塁側に流れてしまい、骨盤の回転が遅く、またホームプレート方向を向いた後、回転はすぐに止まってしまいます。
重心の位置が良い具体例
アトランタ・ブレーブスのクローザー、クレイグ・キンブレル
クレイグ・キンブレルの前足着地前後の体の重心の位置
体の重心の位置はほぼ両足を結んだ直線上にあります。
重心の位置が良くない具体例
巨人の新人、菅野投手の投球フォーム、2013年2月16日紅白戦、球速143キロ
セットポジション
菅野投手の前足着地前後の体の重心の位置
体が前屈みのまま前足を着地し、上体が左側に十分に倒れていないので重心の位置が3塁側にあり、体が3塁側に流れています。したがって、骨盤の回転が遅く、また回転が不十分となり、球速が143キロとあまり出ていません。
歩幅ストライドが小さめで、両足が同時に着地している投げ方は2気筒エンジンに例えられます。
2気筒エンジンの動く様子(スバルの水平対向エンジン)
骨盤の回転を速くするには1気筒エンジンよりも2気筒エンジンの方が有利だと思います。つまり、ストライドを大きく取らないで両足を着地した状態で投げるということです。
投手で言うと、大谷投手、ランディ・ジョンソン、ウォルター・ジョンソンが2気筒エンジンです。
大谷投手160キロを記録した投球フォーム
ランディ・ジョンソンの投球フォーム
バッティングはストライドが投球に比べて小さく、2気筒エンジンのような骨盤の動きをしています。
特にホームランバッターはみんなそうです。その代表はバリー・ボンズです。まさに、骨盤の回転が水平対向エンジンそのものです。一瞬にして骨盤が回っていきます。
バリー・ボンズの骨盤の動きは2気筒エンジンのよう
骨盤を速く回転させるために必要な姿勢
上体を垂直に保つことで、骨盤の回転速度を急加速しています
キンブレルの投球動作は速くて、前足を着地してからは一瞬にしてボールが手から離れていくので、何が大事なのか分りづらいのですが、キンブレルの上体の軸が垂直であることが最も大事なポイントです。
上体の軸が垂直ということは骨盤の軸も地面に垂直であり、股関節と体の重心の水平方向の距離が最大であるので、回転力、つまりトルク(力×距離)が大きくなるので回転が速くなります。軸が傾くと距離が小さくなります。また、重心は上体の回転軸上にあり、回転の妨げになる質量が回転軸に最も近づく姿勢です(慣性モーメントが小さく、回転しやすい姿勢)。
キンブレルは前足を着地してから、上体を垂直に保ち、上体が正面(ホームプレート方向を向いてからは、上体が少し前に倒れ、ボールをリリースしています。
上体を前に倒す動作でボールに方向性を持たせているように見えます。ボールのリリースの前に手を投げたい場所に向かって直線的に押し出しているのかもしれません。これは、キンブレルの制球が良い理由の1つかもしれません。
前足を着地してからボールをリリースするまでの時間はわずか0.2秒足らずです。その後、左脚を軸にして体が一塁側に倒れながら回転して行くのですが、この部分はすでにボールをリリースしてからの動作で、球速にはもう関係ない部分です。しかし急激に体の動きが止まると、肩、肘に衝撃がかかり怪我をするので、これを防ぐための動作と言えます。