大リーグで主流の投球メカニクス、クレイグ・キンブレル編

ピッチング

アトランタ・ブレーブス、クレイグ・キンブレル
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今大リーグで最も三振奪取率が高い投手はアトランタ・ブレーブスの若きクローザー、クレイグ・キンブレルです。キンブレルの平均球速は96.8マイル(時速156キロ)、最速100マイル(時速161キロ)、三振奪取率は16.7/9回で、3人の内2人は三振という凄い成績を残しています。身長は180センチしかありませんが、筋力トレーニングの成果だと思いますが、ガッシリとした筋肉のかたまりのような体型をしています。
キンブレルは球が速いだけではありません。制球も非常に良く、2012年度の四球率は2.0/9回です。
クレイグ・キンブレル24歳
Status状態: Active(現役)
Full Nameフルネーム: Craig M. Kimbrel Born生れ: 5/28/1988 in Huntsville, AL
Bats/Throws: R/R右打ち/右投げ HT身長: 5’11”180センチ WT体重: 205(93キロ)
キンブレルは如何にして速くて制球の良い球が投げれるのか、その投球術(メカニクス)を見てみましょう。
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キンブレルは全身を使って非常に効率の良い投球メカニクス(動作の連動)を持っています。
キンブレルのニックネームはヒューマン・ロケット(人間ロケット)で、まさしくロケットのように爆発的な瞬発力があります。
キンブレルの優れている点
①軸足(右足)で強く体全体を前に急発進させ、次に左脚を伸ばして下半身に急ブレーキをかける。

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この結果、自動車が急ブレーキをかけた時、運転手の上半身が前に飛び出すように、投球に必要な右肩が急激に前に飛び出して行きます。
左足を着地してから左脚はほとんど動いていません。
これは筋力を要しない誰でもできる方法です。球速が上がり、腕、肘にかかる負荷が少なくなります。制球も良くなります。
軸足(右脚)の膝はあまり曲げないことも大事で、膝を曲げすぎると素早い強い蹴り出しは出来なくなります。
右足を素早くかつ速く強く蹴り出し、前足を前に振り出すのに有効な方法

右足を素早く蹴り出すには右脚の筋肉の緊張(張力)を高くする必要があります。この筋肉の緊張が高くなるには一呼吸かかるのですが、瞬時に筋肉の緊張を高めるには、股関節をあらかじめ内旋させておき(内股にしておく)、前足を前に振り出すように股関節を凱旋(蟹股になること)させれば、右足は地面から力を受けるので、右足の筋肉の緊張がすぐに高まります。その結果、前脚の振出を加速でき、骨盤も回転し、右脚の膝も早くホームプレート方向を向くので、膝から下の関節(膝、足首、足指の関節)を使って右足を素早く強く蹴ることが出来ます。
股関節の外旋
骨盤を固定した状態では外旋は膝を体の外側に向けることであるが、右足が動かない状態では外旋は骨盤が回転し、前足がホームプレート方向に振り出されます。スピードスケートの選手は股関節の外旋で前足を前に振り出しています。スピードスケートの選手のお尻の筋肉は非常に発達しているところからして、大臀筋が中心的な役割を果たしていると思われます。
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キンブレルは股関節を内旋しておいて、それから外旋して骨盤を回転させながら前足を前に振り出している
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 良い成績を残す投手は前足を上げたときに股関節を内旋し、背中が打者から良く見えるまで前足を2塁方向にまで捻っている。それから、股関節を外旋して前脚を振り出し、骨盤を回転させている。
マリアーノ・リベラ(ニューヨーク・ヤンキース)
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アロルディス・チャップマン(シンシナティ・レッズ)
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フェリックス・ヘルナンデス(シアトル・マリナーズ)
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2012完全試合を達成した試合での投球
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ティム・リンスカム(サンフランシスコ・ジャイアンツ)
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ダルビッシュ(テキサス・レンジャーズ)
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20120920エンゼルス戦、新人王マイク・トラウトから三振を奪う
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野茂英雄
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野茂対バリー・ボンズ
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ジョニー・クエト(シンシナティ・レッズ)
股関節の内旋は現在大リーグで一番か?
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クエト対青木、三振を奪う
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軸足を最も強く蹴り出すタイミングは?
股関節を内旋しておいて、それから外旋すると、骨盤が回転してゆき、軸足の膝の向きもホームプレート方向近くを向き、脛の角度も前傾してきます。この時が軸足を最も強く(パーン!という感じで)蹴るタイミングです。このタイミングまでは股関節を主に動かしていましたが、最も強く蹴るには膝から下を使わないといけません。曲げた膝、足首を瞬間的に速く伸ばします。結果的に足の指先、拇指球で地面を後方に強く蹴る感じです。
なぜ踵を上げて指先、拇指球で蹴るのか?
地上で最も速く走る動物チーター(最高時速110キロ、100メートルを3秒で駆け抜ける)の走りを見ればその理由がわかります。
地上最速の動物チーターの走り
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チーターの後ろ脚のどこが膝、足かわかりますか?
四足動物の膝は人間とは向きが逆だと今まで思っていましたが、そうではありませんでした。膝だと思っていたところは実は足首でした。膝の位置はずいぶんと上にあり、大腿部は胴体の中に埋まっている感じです。
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チーターは後ろ足を着地する際、踵は着けず、足の指先側で着地し、そのまま強く後方に蹴っています。
軸足を強く蹴るには、膝をホームプレート側に素早く向け、踵を上げて蹴るのが強く速く蹴る秘訣です。
アロルディス・チャップマンが軸足を最も強く蹴り出すタイミング
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②目線の高さが一定している
これは前脚(左脚)の膝をほとんど曲げない結果です。左膝を曲げると、頭が前に倒れ視線の高さが一定でなくなり、制球が悪くなります。また、下半身の急ブレーキがかからず前に流れます。
③腰(骨盤)の回転を速くするための工夫がされている
セットポジションでは十分にクローズドスタンスで構える(打者に十分に背中を向ける)
アメリカではどの投手もそうしていますが、不思議なことに日本ではそうしている選手は少ないようです。
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左足を着く時も、クローズドスタンスを維持するように少し3塁側に着地する
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キンブレルの軸足の蹴り出しが素早いのは、踵を上げ足首を素早く伸ばしているからだと思われます。そのため、膝をあまり曲げてなくても済んでいるのでしょう。キンブレルのように真横よりも斜め前方に前足を蹴り出すのが最も蹴り出しが素早く行なえるような気がします。
これは打撃でも言えます。前足を踏み込んでクローズドスタンスになる打者は、膝をあまり曲げず、なおかつ軸足(後ろ足)の蹴り出しが素早い。
具体例:ライアン・ブラウン
2012年度ナリーグのホームラン王、2011年度はMVP(青木選手が所属するミルウォーキー・ブルワーズの4番打者)、2012年度の成績は打率.319(リーグ3位)、本塁打41本(リーグ1位)、打点112(リーグ2位)を記録。2011年、2012年と2年連続でトリプルスリー、3割、30本、30盗塁を達成。
ミゲール・カブレラに続いて三冠王を達成するのはライアン・ブラウンかエンゼルスのアルバート・プホルスかもしれません。
ライアン・ブラウンがホームランを打ったときの打撃フォーム
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④投球の基本(ロケット理論)通り、足から手へと動作が下から上へと順に行なわれている。
モデルはサンフランシスコ・ジャイアンツのティム・リンスカム
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腕だけで投げないで、体全体で投げるのが投球の基本ですが、この際気をつけなくてはいけないのが、体の各部分①脚、②腰、③肩、④腕、⑤手、を同時に動かしてはいけないのです。5段ロケットのように①から⑤へと順に動かしていかないといけない(ロケット理論)のですが、それが出来ているのは好成績を挙げているわずかの選手に限られます。
ロケットは効率的に推進力を得るために多段式になっており、下から順番に仕事をして行き、用が済んだら切り離されて行きますが、投球も効率よくするためには5段ロケットのように順番に仕事をしなければいけないのです。
前足を地面に着く前に腕が振り出されたり、腰と肩を同時に回したりとかはよく見られます。腰の回転は前足が地面に着く直前にもう回転し始めますが、腕は振り出されてはいけません。
2012年楽天戦の日本ハム斎藤投手、左足が着地する前に腰、肩、腕が同時に回転しています。
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中日の浅尾拓也投手の投球フォーム、こちらも斎藤投手同様、キンブレル投手のようにロケット理論が実践されていません。そのためか肩を痛めたようです。

キンブレルの球が速い理由
①腰(骨盤)の回転が速く、肩の水平方向の回転が速い。
②腕のアングルが水平よりわずかに高く、体の中心からボールまでの距離が長い。

ボールの速さは体の中心からボールまでの距離に比例するので球速が出る。
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体の中心と股関節の中心までの距離が3インチ(7.6センチ)、体の中心からボールまでの距離が30インチ(76センチ)なので、股関節の回転速度がボールではその10倍も速くなるのが、キンブレルの速さの秘密です。
①腰(骨盤)の回転が速く、肩の水平方向の回転が速い理由

キンブレルの投球フォームを背後(右足と左足の着地地点を結ぶ方向)より見る
Vの字がキンブレルの速さの秘密
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重心は両足を結ぶ直線上にあり、上体、骨盤の軸が地面に垂直で、重心は軸上にある。左脚は骨盤の回転と共に一塁側に傾く。したがって、投球動作後半には上体が前に倒れ、一塁側に回転するので重心は左脚よりもさらに一塁側に移動するので上体は一塁側に大きく倒れます。
上体がホームプレート方向を向いた時には両脚がVの字を作ります。
 Vの字は上体が地面に垂直で、重心が両足を結んだ直線上に来ている証拠です。
マウンドからホームプレート方向を見た場合はこのVの字はXに見えます。
物体を回転させる時、質量が回転軸の近くに集まるほど回転しやすい
体を長方形(縦横の比率が2対1で薄くて一定の厚さ)と見なした時、回転軸と重心の位置関係で回転しにくさがどう変わるか
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左から①クレイグ・キンブレルの投球フォーム、②スリークォーター、③オーソドックスなオーバーハンドの投球フォームに相当します
クレイグ・キンブレルの投球フォームは体の回転速度を加速させやすい投球フォームだと言えます。大リーグ史上で最高でしょう。
物体を回転させる時、慣性モーメントが小さいほど回転速度の加速が大きい
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ニュートンの運動方程式 f=mα:力=質量×加速度 つまり、加速度は力に比例し、質量に反比例


回転力トルク(力のモーメントとも言う)の考え方
投手が腕を横に広げて支える時に肩関節にかかるトルク
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慣性モーメントIの求め方

①クレイグ・キンブレルの投球フォームの場合の、緑色の直方体の慣性モーメントIを求める(全質量はM、横幅がa、長さがb=2a、計算しやすくするため厚さは十分に薄いとする)
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回転軸が重心からずれた②の慣性モーメントの求め方
計算には平行軸の定理を使うと簡単に計算できます
この定理は投球、打撃いずれにおいても回転軸が重心からずれると、体は回転しずらくなるという大変重要なことを意味しています。
右投手が投球のときに、なぜ3塁側に体が流れては良くないかの理由にもなっています。慣性モーメント(回転のしづらさを意味しています)が大きく増えるからです。

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オーバーハンドスロー③の慣性モーメントの求め方
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体を回転する時、重心は回転軸上にくると最も回転しやすい(回転を加速させやすい)ということです。キンブレルは姿勢が良く上体が垂直ですが、背中が曲がった姿勢だと慣性モーメントが大きくなり、回転は遅くなります。
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キンブレルは球速を上げるために腰の回転を中心にした筋力トレーニングをして、3年連続で球速がアップしています。2010年は95.4、2011年は96.2、2012年は96.8マイル(時速156キロ)
キンブレルのトレーニング方法(爆発的な瞬発力を鍛える3点セット)

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