肘が下がっていては本当に怪我をしやすいのか?
一方で、肘が上がったフォームは怪我をしやすい傾向がある
私が現在、思っていることについて述べたいと思います。投球フォームの早い段階から、肘を曲げて両肩を結ぶ線よりも高く構える投げ方の典型は、その形から、Inverted W(逆w)とかInverted L(逆L)、Inverted V(逆V)とかアメリカでは呼ばれています。
こういうフォームをしている投手は、短期的に良い成績は出せるのですが、従来のオーソドックスな投げ方よりも怪我をしやすいと言われています。確かに日本の投手でもアメリカの真似をしている投手はトミー・ジョン手術(肘の内側の靭帯、つまり内側側副靭帯、下図の水色の前束部、の再生術)をする人が最近多く見かけられます。
現在の投手は確かに球速は昔よりも速くなっているでしょうが、昔の投手は4マン・ローテンションが主流で、中3日(たまに4日)で投げていたのに、今よりも怪我をしていたという話は聞いたことがありません。昔の投手は先発したら完投するというのが主流で、シーズン300イニングから400イニング近くも投げていました。
投球フォームに大きな変化が起きた要因のひとつは、剛球投手ノーラン・ライアンのピッチングを手本にした本が出たことでしょう。良くも悪くも影響を与えたことは否定できません。
Inverted Wという言葉を生み出したのは、アメリカのトレーニング・用品(SETPRO)を開発、販売しているPaul Nyman氏で、ビデオカメラによる昔の速球投手の分析から、速球投手はInverted Wのフォームをしていることを発見し、共同開発者のTom House氏(元メジャー・リーグの投手)と一緒になって新たなピッチング理論を生み出しました。その理論を、Tom House氏はピッチングコーチだったテキサス・レンジャーズでノーラン・ライアン氏に指導しました。
その後、1991年に2人の共著「ノーラン・ライアンのピッチング・バイブル」が世に出て、多くの選手が真似たのが真相のようです。ノーラン・ライアン氏の投球フォームは40歳を超えてレンジャーズに移籍して、投球フォームが大きく変わりました。現在、私たち日本人が描いているノーラン・ライアンの投球フォームはテキサス・レンジャーズ時代のものです。
ノーラン・ライアンの投球フォームの変化(1979年エンゼルス時代(背番号30)と、1989年以降レンジャーズ時代(背番号34):レンジャーズ時代に右肘の靭帯が切れ引退した)
Paul Nyman氏はInverted Wは、クイックで投球するためのもので、多くの投球メカニズムの選択肢の一つだと、問題を指摘された際に回答しました。
クイックという意味では、Inverted Wはテニスのフォアハンドで言えば、肘からラケットを引くのに似ています。また、アンダーハンドの投手は、上体を前に倒すので、Inverted W、Inverted Lのようなフォームになりますが、肘を怪我した投手は多くはありません。
アンダーハンドやアンダーハンドの延長で、上体をもっと起こしてサイドハンドにする投手もInverted Wのように見えます。
kansas city royalsのリリーフ投手ダン・クイゼンベリー(dan quisenberry)
さらに、サイドハンドよりも若干オーバーハンド気味に投げる投手もInverted Wのように見えます。
剛速球投手ボブ・フェラー(bob feller)
昔の剛速球投手は大体が、オーバーハンドでも胸から上の体の使い方はサイドハンドと一緒です。
肩甲骨は可動域が広いのですが、体の軸を倒す方向よりも、体の軸の回りを回転させるほうが速い動きが可能だからです。
Inverted W自体はそれを使う投手の使い方で良くも悪くもなるというのが真相のようです。Inverted W自体の長所は肩甲骨、肘から先のスナップを速くできるという長所もありますが、肘の内側の靭帯に大きな負荷がかかりやすいという欠点があります。Inverted Lも同様のことが言えます。
Inverted W(逆w)、Inverted L(逆L)の問題点
投球側の腕の前腕(肘から手首にかけての部分)が両肩を結ぶ線よりも体の前側に来て、前腕を立てるタイミングが遅れる
肘から先の前腕、手の重量による慣性により、肘の内側の靭帯が伸ばされるという負荷がかかる。純粋なサイドハンド(腕の角度が地面と平行)、アンダーハンドでは肘を早めに伸ばすので、肘の内側の靭帯に大きな負荷はかかりません。Inverted W(逆w)、Inverted L(逆L)のフォームで、さらにダーツを投げたり、肘を先行させるような投球フォームが問題になります。
ワシントン・ナショナルズのステファン・ストラスバーグの投球フォームの問題点
前足を着地したときに、前腕が地面に垂直近くに来ていない
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前足を着地したときに、前腕が地面に垂直近くに来ていない日本の一例
昨シーズン4月19日・日本ハム戦で左肘痛を発症し、同年7月に左肘内側側副靭帯再建手術(トミー・ジョン手術)を受けた高橋朋己投手のピッチング分析
高橋投手の改善課題
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肘が下がってはなぜいけないのか
肘が早くから上がりすぎるとなぜいけないのか
肘の高さの調節方法、アンダーハンド、サイドハンド、オーバーハンドで違う
結論:胸から上の腕の使い方……
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高橋朋己投手の投球フォーム
前足を着地した時、前腕が地面に平行ぐらいになっており、このタイミングでは地面に垂直近くになっていなければならないので、かなり肘の靭帯に負荷がかかってしまったようです。
高橋投手の改善課題
もっと、前腕を早く立てるか、あるいはそのまま肘を伸ばしていくか
肘が下がっては何故いけないのか?
一般に言われているのは2点である。
①肘が下がると、肘の位置が体から離れ(下図のa)、前足を着地した時、肘から先の質量による慣性により、前腕が後ろに回転するような力(トルク:回転力)を受ける。
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②肘が下がっていると、腕の上腕骨(肘から肩関節までの部分)が背中側に回転(外旋)しづらくなり(上腕骨の大結節が肩甲骨の肩峰にぶつかるので)、肘の内側の靭帯に大きな引張り力がかかる。また、肩関節にも無理な力がかかる。肘が高く上がると、大結節が肩峰よりも体の中心側(鎖骨側)に移動して外旋しやすくなる。つまり、腕がしなりやすくなります。
例外:アンダーハンドの場合は肘が下がっていても怪我をしにくい
肘をあまり曲げないのと、肘をすぐに伸ばすのがその理由です
元阪急の山田久志投手の投球フォーム
以上、述べたように、肘は上がり過ぎても、下がり過ぎてもいけないらしい。
では、肘はどうすれば良いのか?
①肘を上げるタイミングを調節する
アンダーハンドでは、早い段階で高く上がる
元阪急の山田久志投手の投球フォーム
サイドハンドでは、少し早い段階で高く上がる
伝説のニグロリーグのカリスマ、サッチェル・ペイジ、大リーグ59歳で登板
オーバーハンドでは、急いで高く上げなくても良い
オーバーハンドでは、下のmariano riveraのように肩関節を支点に腕を振り子のように使い、肩で引っ張り上げるようにし、一方、反対側の肩(グラブ側)を下げるようにする。その際、着地側の膝を曲げてグラブ側の肩を下げるようにすると、投球側の肘は自然と上がるようになる。サイドハンドでは膝はあまり曲げないでも問題ない。
②前足を着地した際、投球側の腕の前腕が地面に垂直近く(コッキング)になるようにする
例1 元ヤンキースの守護神マリアノ リベラmariano rivera
例2 アロルディス・チャップマン(aroldis chapman)
③アンダーハンド、サイドハンド、オーバーハンドにかかわらず、どれも肘から先はサイドハンドと同様に肘から先が遠心力で素早く伸びてゆくよう、投球側の肩甲骨を横回転優位に回転させる。
速球派投手はオーバーハンドでも、投球側の肩甲骨は横回転優位である その結果、前腕は上体の軸に垂直な平面内を回転し、肘は素早く伸びてゆく(少年野球でよく見られるダーツ投げではない)
例1 アロルディス・チャップマン(aroldis chapman)
例2 クレイトン・カーショー(clayton kershaw)
結論 ①正しいサイドハンドの投げ方(練習)をしなさい。昔の剛速球投手はオーバーハンドだけではなくサイドハンドでもうまく投げれていました。 ②大リーグの殿堂入りをするような投手は、胸から上の腕の使い方はサイドハンドです。
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