大リーグで主流の投球フォーム、日本人投手との違い

ピッチング

 大リーグで100マイル(時速161キロ)近くの球を投げるピッチャーはどういう投球フォームをしているのでしょうか。何か共通のフォーム、投球動作というのはあるのでしょうか。
まず、従来のオーソドックスな投球フォームから見てみましょう。
①ノーラン・ライアンNolan Ryan
ノーヒット・ノーランを7度達成し、大リーグの三振記録5,714を持っているノーラン・ライアン(現レンジャーズ社長)の投球フォームです。松坂大輔投手が手本にした投手です。球は100マイルを記録しましたが、コントロールは良くなく、大リーグ通算の9イニングあたりの四球数B/9は4.7です。9イニングあたりの三振数K/9は9.5です。
三振王ノーラン・ライアン
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②ロジャー・クレメンスRoger Clemens
大リーグ通算354勝、184敗、勝率.658、防御率3.12、三振率8.6/9回、四球率2.9/9回、サイヤング賞7回受賞。100マイル前後の速球と93マイル(時速150キロ)のスプリッターを投げます。
ロジャー・クレメンス
非常にバランスの良いフォームです。左足に全体重がかかるように体の重心が左足の上にあります。これは制球の良さ、球威にもつながる大事なポイントです。左脚が垂直よりも3塁側に少し傾いていますが、これを1塁側に傾くように胸を張るようにして重心の位置を1塁側にずらせば即、大リーグで主流の投球フォームに移行できます。
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球速を上げる方法
マリアーノ・リベラの投球フォーム
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①投げる方の肩の、縦回転の速度を上げる
これはオーソドックスな方法です。日本プロ野球史上最速と言われている元阪急の山口高志投手、元ロッテの村田 兆治投手、ヤクルトの由規投手のように上体をおもいっきり水平になるぐらい速く倒すやり方です。
短所:頭が上下に激しく動くので制球が悪くなることです。
村田 兆治投手のマサカリ投法
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肩の縦回転
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②投げる方の肩の、横回転の速度を上げる
肩の横回転
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現在大リーグで主流の投げ方です。実際には肩の縦回転、横回転の速さを各投手が自分なりに組み合わせて投げています。大リーグ通算303勝、シーズン300奪三振6回のランディ・ジョンソンは、横回転が主体の投げ方です。上原投手は大リーグに来て横回転が主体の投げ方に変わりました。大リーグに移籍した他の投手、黒田、斉藤、松坂、ダルビッシュ投手も横回転の比率を高めてアメリカ的な投げ方に変わりました。
①の方法は、制球に問題があるので、横回転で球速を稼ぐ方法が今や大リーグの主流となっています。右投手で言うと、前脚を伸ばしてこれを回転軸にして体を1塁方向まで回転させる方法です。
現在大リーグで主流の投球フォーム
今年2012年のオールスター・ゲームでは大リーグの最速記録105マイル(時速169キロ)を持つアロルディス・チャップマンと去年のサイヤング賞受賞者のジャスティン・バーランダーが101マイルを記録しました。また、ナリーグのクローザーのクレイグ・キンブレルが100マイルを記録しました。アメリカン・リーグのクローザーのフェルナンド・ロドニーが99マイルを記録しました。
シンシナティ・レッズのアロルディス・チャップマン
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デトロイト・タイガースのジャスティン・バーランダー、イチローを三振にとる
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アトランタ・ブレーブスのクレイグ・キンブレル
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タンパベイ・レイズのフェルナンド・ロドニー
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この4人の共通点
3塁側に向いた腰が一気に1塁側に向いています(右投手の場合)。
腰の回転が速いです。
前脚が伸びて傾きが垂直よりも1塁側に傾いている(右投手の場合)。これは体を1塁側に回転させるために必須の姿勢です。回転の遠心力に負けないようにするためでもあります。

中でも、大リーグ最速記録105マイル(非公式には106マイル、時速171キロも出している)を持つチャップマン投手は1塁側に向いていた体が一瞬にして3塁側に向いています。軸足(後足)の蹴りが非常に強いのが1番の要因だと思います。バーランダー投手と比べると違いが良く分かります。チャップマン投手は蹴りが強くて動きが見えません。
チャップマン投手が人類最速の106マイル、時速171キロを出せた秘密
チャップマン投手は軸足の蹴り出しが驚くほど速い。重要なのはその際の膝の向きで、素早く膝をホームプレートの方向に向けて、前方上空に向かって蹴っている。セットポジションのままの向きで軸足を蹴ると強い蹴りは不可能である。この強い蹴り出しで一気に体の向きを反対方向に変えています。軸足の爪先側に体重をかけ、ここを支点にすることで素早く膝の向きを変えています。陸上短距離選手のように、曲がった足首を伸ばすように前方に蹴るので体は前方にジャンプするように飛び出して行きます。
チャップマン投手は前足を着地してから一気に体の向きが反対方向になる最大の理由

股関節、膝関節の内旋から外旋への動きが大リーグ最速の球速を生み出している
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投球動作の最初の段階であるワインドアップ時のフォームが理にかなっています。上体が捻られ背中が捕手の方に向いていていますが、捻られているのは腰の位置で捻られているのではなく、股関節の位置で捻られています。骨盤をセンター方向側に回転させています。上体をホームプレート方向に回転させる動きは腰から上の捻りを戻すのではなく、骨盤そのものを回転させてその結果として上体がホームプレート側に回転してゆきます。腰の周囲の筋肉によって腰から上の上体の捻りを戻す動作は、非力で動作が遅く効率が良くありません。股関節を内旋しておいて、それから外旋することによって骨盤を回転させ、軸足の膝の向きがホームプレート方向側に向いてきたら、膝、足首、爪先を一気に伸ばし、骨盤の回転をさらに加速させています。
チャップマン投手(左腕)は、前足を前に踏み出す段階からすでに、骨盤を素早く回転させています。その結果、前足を着地してから骨盤の回転がさらに加速するので、体の向きが1塁側から3塁側へと一気に反対側に変わっています。
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肩が素早い円軌道を描くので、腕は何もしなくても遠心力で自然に振り出されているように見えます。ボールのリリース近くまで、腕に力をいれず何もしないことが大事な気がします。それが肩、肘への負担をかけずに速いボールを投げる秘訣のようです。

チャップマン人類最速106マイル、軸足の膝を素早く前に向けて蹴っている
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(1コマ1/20秒)
右投手で考えると、前足(左足)を前に踏み出し膝を伸ばしたまま、左脚を軸にして、体を素早く回転させ、投球動作の最後には1塁側に体が傾く一連の動作です。
背中を後ろに少し反らせながら左足を前に踏み出し、左足が地面に着くと、体を一気に回転させ、右手でフォロースルーを行い、体は一塁側を向きます。前脚の軸は遠心力に打ち勝つために1塁側に少し傾きます。
右腕はあまり体に近づけないで、スリークォーターからサイドスローに近い腕の角度にしています。回転軸から距離があるほど速度が速くなるからです。
左投手の場合には右足を軸にして、最後は3塁側に体が傾きます。
他の大リーガーの多くも程度の差はありますが、同じように体の回転を主体にして球を投げています。この投げ方の長所を自分なりに推測すると、
①球速が出る。
身長が高くなくても、体の回転速度を上げることで、球速が出る。先にあげたペドロ・マルチネス、クレイグ・キンブレル、フェルナンド・ロドニーの身長はみんな180センチ程度と高くありません。
②制球が良い。
一定の姿勢(くの字姿勢)で体を回転させるので体が前のめりにならず、球の高低が安定する。前足一本で体を回転させるのでマウンドの傾斜の影響を受けにくいことも制球にはプラス。逆にマウンドの傾斜を利用して体の回転を加速でき、球速が出やすくもなる。
③体を一塁側まで回転させ、球のフォロースルーを長く取れるので、ボールのリリースポイントも前に来て、球の回転が良くかかり、球が良く変化する。
以上が考えられます。
今まであまり気にしていませんでしたので、いつからそうなのかわかりませんが、この投げ方が今や大リーグの主流のようです。誰がこの投げ方を始めたのかは良く知りませんが、1960年代にサンディー・コーファックスとともに活躍した、サイヤング賞も受賞した右の剛球投手ボブ・ギブソンは極端に投球後一塁側に体が傾いた投げ方をしているのを知りました。もしかしたら、この人が元祖でしょうか。
1960年代に活躍したボブ・ギブソンBob Gibson
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その後の有名な投手では史上最強右腕と言われたペドロ・マルチネスがこの投げ方をしていました。彼はサイドスローに近い投げ方をしていました。身長は180センチ足らずなのに、全盛期には100マイル近い球を投げていました。ペドロ・マルチネスの投げ方を多くの投手が参考にしたのでしょうか。
史上最強右腕ペドロ・マルチネスPedro Martinez(ヤンキース戦で17三振)
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藤川球児投手は火の玉ストレートで有名ですが、大リーグで火の玉投手といえばボブ・フェラーが有名です。1936年に17歳で大リーグにデビューしその年に1試合で17三振を奪う活躍をみせ、大リーグ通算で7度の奪三振王に輝きました。まだスピードガンがなかった1946年に、107・9マイル(約174キロ)を記録したともいわれています。陸軍の測定装置によりホームプレート上で98マイルを記録したそうです。
大リーグの火の玉投手ボブ・フェラーBob Feller(時速174キロを記録したと言われている)
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今大リーグで主流となっている、投球後半に体が1塁側を向く投球フォームです。肩の横回転が主体の投法です。ボブ・フェラーの方がボブ・ギブソンよりも先にこういうフォームで投げていました。
ボブ・ギブソンと同時代に活躍したハイ・キック投法の象徴のような投手、ドミニカ出身のフアン・マリシャルJuan Marichal(1960-1975)、身長 6′ 0″ =約182.9 cm、体重 185 lb =約83.9 kg
大リーグ通算243勝142敗、防御率2.89。注目すべきはダイナミックなフォームから予想できないそのコントロールの良さで、四球率1.8/9回、元はサイドハンドスローの投手でした。サンフランシスコ・ジャイアンツで大リーグデビュー。その後ジャイアンツに14年在籍。
肩の縦回転が主体であるが、上体が一塁側に傾くので、肩の横回転もあります。体全体で投げているためか故障もなかったようです。肘はあまり曲げておらず、腕は胴体と一緒に回っており、腕は意識して振っていないように見えます。怪我もなく、制球、防御率も良く、200勝以上達成したフアン・マリシャルの投球フォームは注目に値します。
フアン・マリシャルJuan Marichalの投球フォーム
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フアン・マリシャル究極のハイキック投法

大リーグで主流の投球フォームで初めて300勝を達成した投手ドン・サットンDon Sutton(1966-1988)
身長 6′ 1″ =約185.4 cm
体重 185 lb =約83.9 kg
通算324勝256敗、防御率3.26、三振率6.1/9回、四球率2.3/9回。制球の良い投手で、それが理由のひとつなのか、18年連続10勝以上の成績を残しました。ドジャースで大リーグにデビュー。その後15年ドジャースに在籍しました。怪我とは無縁の投手で、故障者リストに載ったことが一度もありません。同じドジャースの先輩サンディ・コーファックスのような圧倒的な投球ではありませんが、安定した成績を残しました。
ドン・サットンDon Suttonの投球フォーム
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大リーグで主流の投球フォームに大きな影響を与えたと思われる日本人投手
それは日本人が大リーグに進出するきっかけを作ったパイオニア野茂英雄投手です。
投球後半は上体が一塁側に向く投げ方ではありませんが、ワインドアップで上体を大きく2塁方向にまで捻るトルネード投法は、現在のアメリカで主流の投げ方に大きな影響を与えたのではないかと思われます。野茂い投手が大リーグにデビューした年以前に、あのように上体を捻る投手は大リーグにいなかったのではないでしょうか。このモーション抜きには現在の投球方法は成立しないと思います。
野茂投手のトルネード投法
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野茂対バリー・ボンズ
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では、現役の日本人大リーガーはどうでしょうか。
制球の良い上原投手が一番近い投げ方をしています。極端に一塁側に傾きはしませんが、左足を軸にして素早く回転してコンパクトなフォームで投げています。大リーガーと同じく腰の回転が速く、日本人大リーガーの中では1番です。球速はあまりない(89マイル、時速143キロ程度)のですが球の回転が非常に高く(フォーシームで2500rpm程度)、打者の多くが空振りをしてしまいます。
上原投手
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同じく制球の良い黒田投手も近い投げ方をしています。調子の良い時ほどその傾向が強いです。6月30日シカゴ・ホワイトソックス戦で11三振を奪った試合がそうでした。
黒田投手ホワイトソックス戦で奪11三振
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ダルビッシュ投手は4月が一番調子が良く、ヤンキース戦では11三振を奪い圧倒的な投球をしました。しかし、5月になってからは調子が徐々に下がり、シーズン後半では防御率も4点台半ばになり非常に苦労しています。
11三振を奪った4月24日ヤンキース戦と、6回2/3イニングで6失点した8月6日レッドソックス戦の投球を比較してみましょう。
ヤンキース戦での投球では膝が少し曲がって、少し前かがみではありますが、回転を使った投球で躍動感があります。
一方、レッドソックス戦では膝が伸びて背筋も伸びて悪くないフォームですが、左足を軸にした体の回転がなく、ヤンキース戦の時に比べて躍動感がありません。
2つの投球フォームの良いところが合わさると、完璧な投球フォーム、投球動作だと思います。恐らく、球速もあがり、球の動きも良くなるでしょう。
ダルビッシュ、ヤンキース戦で奪11三振
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ダルビッシュ、レッドソックス戦で2塁打7本を打たれた試合
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ダルビッシュ15勝目、2012シーズンは最終的にこのフォームになりました(球速93マイル)
4月24日ヤンキース戦のフォームと比較すると、腰の回転が速くなっています。
左脚が曲がり過ぎているのと、上体を前に倒し過ぎたままにしているためか、左足を着地したとき体の重心が少し左足よりも3塁側にあるため、まだ体がスムースに1塁側に回転して行きません。
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上原投手は巨人時代は左足を着地したときに左膝を曲げていましたが、大リーグに来てからは伸ばすようになりました(1999入団1年目)
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黒田投手も広島カープ時代は左膝を曲げていましたが、今は左膝を伸ばすようになりました。
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ダルビッシュ投手もヤンキース戦の頃に比べて膝の曲がりが少なくなってきましたが、まだ曲がりが大きいので膝を伸ばしたときに脚が後ろに動いて体の回転が滑らかではありません。体の重心も左足の上に来ていません。上体が前かがみ過ぎて重心が3塁側に少し流れる状態で、無理やり体を1塁側に回転させているので、左足を蹴ったときに足が後方に大きく動いています。
ダルビッシュ投手は、左膝を伸びして、体の重心の位置を直せば、球速はもっと増し制球も良くなると思います。球速も100マイル近くになると思います。
ダルビッシュ投手は今シーズン終盤にセットポジションをチャップマン投手のように前かがみにして、最初から軸足の爪先側にに荷重がかかるように修正してフォームは良くなりました。
しかし、軸足の膝の向きをホームプレート側に向けるのが遅く、蹴り出すタイミングも遅いようです。チャップマン投手、黒田投手は軸脚の膝をホームプレート側に向けてから蹴っています。そのため、ダルビッシュ投手は重心も低くなりがちで、前脚の膝も曲がり過ぎになっているようです。また、軸足を蹴り出す強さもチャップマン投手、黒田投手よりも弱いように見えます。
ダルビッシュ投手はフォームの修正能力が高いので、来年は期待できそうです。変化球は大リーグでも超一流であることが今年証明されたので、速球が確立されたら打者はもうunhittable(打つことが出来ない)になる気がします。そうなれば、来年はサイヤング賞が期待できると思います。
大リーグに来て1年目から大活躍した斎藤隆投手
1994年横浜時代の斉藤隆投手の投球フォーム。
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左足の上に体の重心が来ている点に注目。
体が3塁側に流れていない。左脚が垂直になっている。重心の位置が良く、投球後左足一本で立っていられます。
日本人投手は3塁側に体が流れる選手が多いです。
体が3塁側に流れる日本人選手は大リーグでは成功していません。
大リーグで成功している選手、黒田投手、上原投手、斎藤隆投手は左足のバランスが良く、体が3塁側に流れていません。
松坂投手は左足のバランスが悪く、重心の位置が安定していません。ほとんど体が3塁側に流れています。ダルビッシュ投手も少し体が3塁側に流れています。
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2011年10月ブルワーズでポストシーズンの試合に登板した斉藤隆投手
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斉藤隆投手は大リーグに順応するのが速かった投手です。ドジャースに入団し、1年目から大活躍しました。今年は怪我でよい結果を残せませんでしたが、大リーグ通算7年で防御率が2.34と日本人メジャーリーガーで最高の数値を残しています。斉藤隆投手は日本人メジャー最高球速となる99mph(約159km/h)も記録しています。日本でよりもアメリカでの成績の方が良いのは驚きです。
横浜時代の投球フォームを見てみると、オーソドックスなフォームですが、マリアーノ・リベラのように体の重心が左足の上にあり非常にバランスの良いフォームをしています。これが大リーグで1年目から成功できた要因だと思います。斉藤投手はドジャースでの1年目に24セーブを挙げ、防御率は2.07でした。2年目には39セーブを挙げ、防御率は1.40でした。また投球フォームをアメリカ的に変えたのもアメリカで成功した秘密だと思います。
左膝は深く曲がっていますが、2011年ブルワーズ時代の投球フォームを見ると、左膝の曲がりが少なくなっており、投球の最後には体が1塁側に向くようになっており、アメリカ的なフォームになっていました。このフォームの変更のおかげで球速が日本で投げていたときよりも速くなったのだと思います。
現在のダルビッシュ投手と似たフォームです。左足を蹴ったとき左足が後ろへ大きく動く所は特に良く似ています。斉藤投手の他の投球シーンで、左膝の曲がりが少ないときは足の後ろへの動きは少なくなっています。この動きは左膝の曲がりの大きさだけが原因ではなく、体の重心の位置にも関係しています。少し重心の位置が3塁側に来すぎているためか、左足を蹴ったとき左足が後ろへ大きく動いているのだと思います。
松坂大輔投手の投球フォーム
西武時代には上体を前に速く倒すことで球速を稼いでいました。大リーグに移籍してから、上体を前に倒さなくなり、代わりに1塁側に向けるようになりました。別の表現では、肩を縦に振ることから横に振る、つまり肩の縦回転から横回転に変わったと言えます。
松坂大輔投手、入団5年目、2003年西武時代、時速153キロ
左足を着いたときの体のバランスが良くありません。全体重がクレメンスのように左足にかかっていません。体の重心が左足よりも3塁側にずれていて、体が3塁側に流れています。
左足一本でバランスよく立っていられるように、左足の上に体の重心(大体へその位置)が来るのが投球の基本です。制球の良いマリアーノ・リベラの投球フォームもこの基本を守っています。この基本ができていれば、体の重心を少し左足よりも3塁側(背中側)にずらすことで、アメリカで主流の投球スタイルへ容易に移行できます(さらに前脚の膝を伸ばす必要があります)。斉藤隆投手が1年目からずっと活躍できたのはこの左足のバランスの良さにあると言えます。
また、右足の蹴りが非常に弱いのも気になる点です。これでは腰の回転が弱くなり、左膝を曲げながら意識的に体を前に倒すことになり、頭が下に急激に動き制球を乱し、肩、肘への負担もかかります。
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松坂大輔投手、2012年初勝利、大リーグ通算50勝目、93マイル、時速150キロ。
この投球の時に限っては体の重心の位置は良く、大リーグの主流と比べて違っているのは、左膝の曲がりが大き過ぎて体がスムースに1塁側に回転していないことと、踏み出す歩幅ストライドが狭すぎて球速が出にくくなっている点です。
また、右膝の曲がりが大きすぎて蹴る力が弱く、これも体が速く1塁側に回転していかない原因です。
松坂投手は投球のほとんどで重心の位置が悪く、3塁側に体が流れているのが気になります。
松坂投手は現在、フリーエージェントになっており、昨年手術した肘の状態も来年はもっとなりそうなのでお買い得の投手と呼ばれています。大リーグで50勝を挙げて実績は十分で、しかも年棒が現在の8億円から1年契約の1億円台に下がりそうだからです。
膝、歩幅ストライド、重心の位置を修正すれば来年はその言葉通りになるかもしれません。きっかけさえあれば、投手は大きく化ける可能性があります。
元阪神、現在サンフランシスコ・ジャイアンツのボーゲルソンは35歳にして今年ワールドシリーズで1勝、プレイオフ全体では3勝を挙げて大活躍でした。
また、タンパベイ・レイズのフェルナンド・ロドニー選手はロサンゼルス・エンゼルスから今年移籍し、2011年度の防御率4.50から今年は大リーグ記録となる防御率0.60に下げました。セーブ数は48(セーブ機会50)でアメリカンリーグのセーブ王になりました。さらに、カムバック賞、最優秀救援投手賞も受賞しました。
松坂投手には来年ぜひカムバック賞を取ってほしいと願っています。
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最後に7月30日ブルージェイズ戦で13三振を奪って2勝目をあげた岩隈投手の投球です。左足を軸にした回転による投球ではありませんが、13個目の三振は少しそれに近い投球でした。
13三振を奪った岩隈投手の13個目の三振
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日本人投手も大リーグの主流の投球をした方が良い結果が出るようです。これから大リーグを目指す日本人投手は、早くからこの投球フォームを習得した方が良さそうです。
大リーグで主流の投球フォームと日本のプロ野球投手の投球フォームの違い
両者の違いは球速を稼ぐ方法の違いから生れます。
大リーグでは腰の回転を速くすることで球速を稼ぐ。
日本のプロ野球は上半身を前に速く倒すことで球速を稼ぐ。
山口高志投手、村田兆治投手(マサカリ投法)、ヤクルトの由規投手が代表的な投手です。しかし、この3人のように上半身を大きく倒すと頭が大きく下へ動くので制球が悪くなる欠点があります。
具体的なフォームの違い
大リーグ
①前脚の膝をあまり曲げずに着地し直ぐ真っ直ぐに伸ばす
膝が曲がっていると腰の回転が素早く出来ない。また、くの字姿勢のまま体が素早く1塁方向まで(右投手の場合)回転できない。重心は高めになる。
②クローズドスタンス(セットポジションで前足を上げたとき背中を十分に打者の方に向ける)
③体の重心の位置が前足よりも1塁側にくる(右投手の場合)
したがって、右投手の場合、前脚の軸が垂直よりも1塁側に倒れる。これは、体の回転が速いので遠心力に打ち勝つために必要です。
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日本
①オーソドックスなフォームの投手が多く、前脚の膝をノーラン・ライアンのように深く曲げている。
これは、上体を前に倒すことで右肩を前に出し球速を稼ぐためです。
ダルビッシュ投手も左膝が曲がっていて重心は低めです。
②スクエアスタンス(セットポジションで前足を上げたとき左肩と右肩を結んだ線がホームプレートに向く)
③体の重心の位置が前足を通過するか、ノーラン・ライアンのように前足よりも3塁側にくる(右投手の場合)
楽天、田中マー君のフォーム、2011年8月27日ソフトバンクス戦で奪18三振
体の重心の位置が左足よりも3塁側にあるため体が3塁側に流れています。
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日本人最速をマークしたヤクルトの由規投手
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日本プロ野球史上最速(160キロは超えていたらしい)の山口高志投手のようなフォームをしています
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山口高志投手の投球フォーム(左足の膝が曲がっていない点に注目)
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山口高志投手の投球フォーム(動画)はここをクリック
由規投手と山口高志投手の共通点
①前脚の膝は曲げないで伸ばす
②上体を思い切り速く大きく前に倒す
②は①を行なうと、下半身に急ブレーキがかかり、上体だけが前に飛んでゆくので自然とそうなってきます
膝を曲げると腰がどうしても前に移動してしまいます。膝を思い切り曲げて重心を落とすと、下半身のブレーキはかかりやすくはなりますが、膝を伸ばした方が良い結果が出ます。また膝を曲げすぎると腰の回転がしづらくなる欠点があります。だから、アメリカの主流は膝を伸ばすのだと思います。
由規投手と山口高志投手の相違点
由規投手の方がストライド(歩幅)が大きく、右足の蹴りが強い。現代流の投球方法に進化させています。
由規投手は腰の水平方向の回転をあまり使ってないので、体の重心を1塁側にずらせば、大リーガーのように腰の回転が速くなり、球速もさらにアップしそうです。上体を前に倒す大きさを少し減らして、前脚を軸に体を1塁側に回転させるようにすれば、球速を減らさずに制球も良くなり、肩、肘への負担も減るでしょう。
由規投手は球速は出るのですが、制球が良くありません。2011年度までの四球率/9回が3.9です。重心の位置が低いので軸足の蹴り出しのタイミングを早くして重心をもっと高くすれば、クレイグ・キンブレルのように目線の高さが一定となり制球はもっと良くなりそうです。
日米のフォームの比較から導かれる点
速い球を投げるのに必要なポイント
①前脚を伸ばす
膝を少し曲げて着地して素早く伸ばす
②前足を着いた時の重心の位置を投げる手の側にずらさない(ロジャー・クレメンス、マリアーノ・リベラのように)
そうすると、右投手では下半身が前に流れ、体が3塁側に流れ、球速が上がらない。肩、腕で球速を稼ぐために制球も悪くなり、肩、肘への負担が大きくなります。故障にもつながります。肩、肘の手術をした投手を見るとそうなっている選手が多いようです。五十嵐投手、松坂投手、村田兆治投手等。
重心の位置は最低でも、前足の上を通過するようにする。
アメリカの主流は(右投手の場合)重心をさらに1塁側にずらし、最後は上体が1塁側に向きます。
重心のずらしは前足を着地してから、背中を後ろへ少し反らせて行います。前足を着地するときはあくまで重心は左足の上というよりも、体の重心が前に進んで描く軌跡の延長線上にある必要があります。
参考にするべき大リーグの投手は誰が良いのか?
参考にするポイントは
①球速が出やすい
②制球が良い
③肩、肘を怪我しない(肩、肘への負担が少ない、つまり下半身を効率よく使っている)

この基準からすると、ノーラン・ライアンよりもロジャー・クレメンスの方が優れています。ノーラン・ライアンはスピードを優先したため制球が悪くて、サイヤング賞は取れませんでした。ノーラン・ライアンを手本にした投手は、松坂投手のように今の時代に適応するのに苦労します。松坂投手はロジャー・クレメンスを手本にしていれば大リーグでもっと成功したと思います。

上の3つを同時に成立させている大リーガーを1人挙げるとすると、私はアトランタ・ブレーブスのクレイグ・キンブレルを推奨したいと思います。③については年齢が24歳とまだ若く完全には証明されていませんが、今のところ問題はないようです。
チャップマン投手の投球フォームもキンブレル投手と甲乙つけがたい良さがあります。特にセットポジションからの投球フォームは頭の動きも少なく理想的な投球フォームです。この二人の良いところを取り入れれば、人類最高のフォームになるかもしれません。
セットポジションからのチャップマン投手の投球、103マイル(時速166キロ)
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球速よりも制球、肩、肘への負担を重視するならば、マリアーノ・リベラを推奨します。マリアーノ・リベラは制球が良く、20年近く肩、肘に大きな怪我せずに投げて、実績を残してきました。大リーグ記録となる608セーブ、大リーグ通算18年間の防御率は2.21です。

クレイグ・キンブレルが凄いのはスピードとコントロールを両立させているからです。
一般的にスピードを重視するとコントロールが乱れがちになるものです。
キンブレルは無駄な動きがなくエネルギー効率が非常に良いコンパクトなフォームをしています。
今、大リーグで最も三振奪取率が高い投手はアトランタ・ブレーブスの若きクローザー、クレイグ・キンブレルです。キンブレルの平均球速は96.8マイル(時速156キロ)、最速100マイル(時速161キロ)、三振奪取率は16.7/9回で、3人の内2人は三振という凄い成績を残しています。身長は180センチしかありませんが、筋力トレーニングの成果だと思いますが、ガッシリとした筋肉のかたまりのような体型をしています。
キンブレルは球が速いだけではありません。制球も非常に良く、2012年度の四球率は2.0/9回です。
キンブレルはまだ24歳と若く、③の肩、肘への負荷がこの投球フォームでどれぐらいかかっているのか、本人しかわかりませんが、ビデオで見る限り足腰を効率的に使って、球速を稼いでいるように思えます。このまま怪我がなければ大リーグ史上最高の投球フォームだと私は思います。
①まず、膝の曲がりが非常に少ない点が挙げられます。
膝を深く曲げて伸ばすのは非常に膝への負担がかかります。キンブレル投手は軸足も前脚も膝の曲がりが少ない。
②体のバランスが非常に良く、いつも同じフォームで投げられる。
重心が右足の上からまっすぐホームプレートへ向かい、左足はその重心の描く軌跡の延長線上に来ています。
左腕を肩の高さまで水平に上げバランスをとって、体の軸が傾かないようにしています。
③頭の動きが少ない
これはコントロールを良くするために重要なポイントで、上原投手のコントロールの良さもこれに由来していると思われます。キンブレル投手は頭の上下動だけでなく、頭が1塁側に流れる動きも他の選手に比べて少ない。
頭の上下動が少ないのは左膝を少し曲げて着地し、すぐ伸ばしているからです。そのため上体が前に倒れて頭が下に動いても、膝を伸ばすことで上体が上に動くため、頭の上下方向の動きが相殺されるためです。
キンブレル投手の頭の上下動が少ない秘密
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頭が1塁側に流れる動きも他の選手に比べて少ないのは、体の重心を左足から1塁側に大きくずらさないで左脚の軸の傾きを必要以上に1塁側に大きく傾けないためです。
また、左足をクローズド気味に少し3塁側に着地させているためです。
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④頭がいつもホームプレートの方を向いている。左手のグラブを脇に抱えたまま最後まで下げない。
これは非常に大事な点で、命にかかわります。
大リーグの主流の投球フォームでは、投球後半に体が1塁側に向くので打者の打球が右側頭部を直撃する可能性があるからです。
今年、オークランド・アスレチクスの先発ブランドン・マッカーシー投手はエンゼルス戦で、打者のライナー性の当たりが右の側頭部を直撃し、その場に倒れました。側頭部を骨折し、危篤状態に陥りましたが、幸いに手術後の経過も良くまた野球ができそうなので安心しました。
マッカーシー投手は左手のグラブをまっすぐに下げていました。
マッカーシー投手の頭部に打球が直撃(動画)
今年のタイガース対ジャイアンツのワールドシリーズでもこれと似た場面がありました。
タイガースの先発ダグ・フィスター投手が同じくライナー性の打球が頭にぶつかりましたが、ボールは大きく跳ねセンター前まで飛んでいったので、ダメージは少なかったようで本人は7回途中まで投球を続けました。フィスター投手も左手のグラブをまっすぐに下げていました。
フィスター投手、頭にボールがぶつかる(動画)

コメント

  1. 匿名 より:

    確かに横回転のほうが大胸筋も最大限使えるし
    肩関節への負担が少なくていい方法だな

  2. 通りすがり より:

    リリースポイントの微調整が難しいフォームですね。精度の低い投手が量産される理由が逆説的にわかりました。

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