大リーグで300勝以上挙げている投手は現在までにわずか24人で、今は先発5人分業制が主流になっているので今後300勝以上達成できる投手はなかなか出てこないのではないかと言われています。24人の内、第2次世界大戦以後に300勝を達成した投手は12人です。
ゲイロード・ペリーは不正投球スピット・ボール(唾、ワセリン、歯磨き粉とかをボールに付けたり、爪等でボールに傷を付けたりしてボールに大きな変化を付ける行為)で有名な投手ですが、すばらしい成績を残しています。1920年まではスピット・ボールは禁止されていなかったという歴史があるせいか、スピット・ボールに対しては規制が甘いようです。薬物に対しては厳しいのですが。禁止になった理由はスピット・ボールが打者の頭に当たって大リーグ史上、事故による2人目の死者が出たからです。
ゲイロード・ペリーは1962年から1983年まで22年間(44歳まで)サンフランシスコ・ジャイアンツを中心に8つのチームで活躍しました。
大リーグ通算記録:314勝265敗、防御率3.11、奪三振数3534、四球率2.3/9回、三振率5.9/9回
サイヤング賞を両リーグで一回づつ受賞、ノーヒット・ノーラン1回。
15勝以上を連続13年続けました。これを上回るのはサイ・ヤングの15年と、グレッグ・マダックスの17年だけです。
ゲイロード・ペリーはスピット・ボールで有名な投手ですが、投球フォームはサイドハンドスローに近く、肩を横に回転させる投げ方で、制球も良く、肩、肘の故障もなかったようです。
フォーム的には現在の大リーグで主流の投げ方に近く、非常に良い投げ方だと思います。大変参考になる投げ方だと思います。
ゲイロード・ペリーの投球フォーム
ゲイロード・ペリーの投球フォーム(連続写真)
投球メカニクス(pitching mechanics)
メカニクスとは技法、手順、力学といった意味ですが、投球メカニクスはうまく翻訳しづらい用語です。投球動作の連動といった意味ですが、しっくりこないのでそのままメカニクスを使わせてもらいました。
ゲイロード・ペリーの投球メカニクスは肩を横に回転させる投げ方で、サイドハンドスローに近い投げ方です。ボールのリリースポイントあたりで腕はほぼ地面に水平で、アトランタ・ブレーブスのクローザー、クレイグ・キンブレルとほぼ似たフォームです。
それでは、投球フォームの連続写真の流れに沿ってゲイロード・ペリーの投球動作を見ていきましょう。
投球動作の段階
①ワインドアップの始めの姿勢
ワインドアップとは巻き上げるといった意味で、腕、足を巻き上げるように上に持ち上げる動作です。ゲイロード・ペリーはホームプレート方向を向いた姿勢からワインドアップを始めています。日本の投手に多い動作です。現在のアメリカではあまり見ない動作です。
②ワインドアップ
左脚の膝を右脚の膝よりも2塁側に回転させて、股関節を十分に内旋させており、その結果、背中がホームプレートの方向を向いています。上半身と下半身が十分に捻られています。
これは肩を横に回転させるのに必要な動作です。ここで注目したいのはどの高さで上体を捻るかです。背中を見ると背中は平らで捻られた感じがしません。股関節の高さで上半身と下半身が捻られているからです。つまり股関節の内旋で上半身と下半身が捻られているからです。
腰から上を捻るのはあまり効率的とは言えません。腰を回転させる専用の筋肉はないので、腰を回転させる動作は遅く、大きな力も出ないので補助的な役割でしかありません。大事なのは股関節を使って骨盤を素早く回転させることです。その結果、骨盤の上にあるすべてが回転するので、肩も水平に素早く回転します。
③コッキング前期、テイクバック始め
コッキング(cocking)とは上に向けるといった意味で、cockはオスの鳥のことで、動詞としては上に向ける(頭か羽かよくわかりませんが鳥の動作から来ているのでしょう)という意味があります。
右腕は下げたままでセンター方向には引いていません。体が前に移動するので腕はそのまま慣性に従ってそのまま残す感じです。
④コッキング前期、テイクバック
腕は背中側に大きく引いてはいません。また肘も高く上げていません。両肩を結ぶ線よりも下の位置にあります。肩、肘に大きな負荷はかかっていません。
⑤コッキング後期
前腕を垂直に立てています。
⑥コッキング後期
前足が着地。ストライドはあまり大きくはなく、両足が地面から離れない程度の大きさです。グラブは脇に抱え込みます。
⑦加速期
加速期は腕が前に進む速度が急速に速くなる時期です。
軸足を思い切り蹴り右腕の前腕は水平に倒します。
⑧、⑨加速期
肘が伸びて行きます。上体は前に少し倒れて行きます。
⑩加速期
ボールのリリースポイント。腕は地面と水平の高さで、サイドハンドスローと同じ高さです。
⑪減速期
前脚はホームプレートからセンター方向を見れば、垂直になっています。体の重心は前足と軸足を結ぶ線の上にあり、投球の基本が守られています。
⑫フォロースルー
上体は前に倒れ肩の縦回転も大きくなります。肩は水平方向にもよく回転し、上体は1塁側に向いています。フォロースルーも十分にとっています。肩、肘を急速に減速させると負荷がかかるので、フォロースルーを大きくとることは大事です。
まとめ
テイクバックで腕、肘を高く、あるいは背中側に大きく引いておらず、前足を踏み出す時、骨盤を回転させながら行っているので、腕、肘が遅れて出てくることもなく、肩、肘に負荷のかからない投球フォームと言えます。
⑦、⑧、⑨、⑩加速期の両肩と右肘の位置を見ると、右肘は両肩を結んだ線上にあり、これは肩に大きな負荷がかかっていない証拠です。肩の水平内転がされておらず、肩にトルク(回転させる力、力のモーメント)がかかっていないことを意味します。ボールのリリースの瞬間にだけ、積極的に肩にトルクをかけています。