マリアーノ・リベラの制球の良さの秘密

ピッチング

 通算607セーブの大リーグ記録を持つ史上最高のクローザー、マリアーノ・リベラはカットボールで有名ですが、リベラはそのカットボールを思った所に投げるコントロールが並外れています。そうしてバットのスウィートスポットにボールが当るのを阻止して打者を打ち取っています。
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 リベラのカットボールが打ちにくいのはスピード(90マイルを超える)だけではなく、制球の良さに起因しています。
 リベラの制球力の秘密はどこにあるのでしょうか。リベラ自身が投球のコツを解説していますので見てみましょう。
 まずはリベラの制球が優れている証拠を見てみましょう。ストライクゾーンのどこに投げているかを示すマップです。赤色の密度の高いところほどボールが集まっています。これを見るとストライクゾーンの真ん中にボールが来ていません。今迄多くの投手のマップを見てきましたが、どの投手もストライクゾーンの真ん中にボールが来ています。
 リベラの制球の良さを示すマップ(赤い部分をボールが通過)
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 リベラが子供達に投球方法のコツを教えています
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①closed 体を閉める、つまり打者に背中を見せる。上半身と下半身のひねりを作るために必要
 左足を開いて地面に着いた時、上半身と下半身のひねりが出来ます。その時、上体が開いている(打者にお腹を見せる)と上半身と下半身のひねりが少なくなって腕だけで投げるようになってしまいます。
②左足を上げ右足一本で静止できるバランスの良いフォームを作ります。このフォームにより右足で地面に十分過重し、力強く蹴り出すことができます。ダルビッシュ投手のセットポジションがシーズン後半に前かがみになったのは右足の蹴りを強くするためです。それにより別人のように調子が良くなりました。
③左肘を上げ肩越しに捕手のミットを見ます。これも体が開くのを防ぐためです。それから左の骨盤上部を爆発させるように前に出す。つまり、左足を前に勢いよく踏み出し、左の骨盤上部に意識を置きます。
④左の骨盤上部を中心にして右肩をスイング(振り出す)します。そうすると右腕は引っぱられるように自然に前に出てゆきます。
 ではリベラの投球フォームを見てみましょう。
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 リベラの投球フォーム(連続写真)
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①CLOSED 体を開かず、打者に背中を向ける
②左足を上げ、さらに打者に背中を向ける
③左腕を上げ、肩越しに捕手のグラブを見る(体が開くのを防ぐ効果あり)
④グラブは左脇に抱え込む
⑤体の重心は左足の上を通る位置にする
⑥頭が大きく動かないように上体は必要以上に前に倒さない
 リベラは実に力みのない投球フォームをしています。長い間怪我なく、制球と球速のバランスの良い投球を続けるためのお手本となる投球フォームだと思います。
 
 投球で最も大事な点

 如何に肩を速く効率よく前に振り抜くかにあります。

 実際のボールの球速は①肩を振り抜く速度と、②肩を中心に腕を振り抜く速度、の合計となりますが、大事なのは、下半身を十分に使って①の速度を上げ、肩を中心に腕を振り抜くのは球速のためではなく制球のために使うことです。
 左の骨盤上部を中心に右肩を振り抜く
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球速を上げる方法
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 球速を上げる方法
①肩の縦回転の速度を上げる(オーソドックスな方法)

 5714三振の大リーグ記録を持つノーラン・ライアンの投球フォーム
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 ノーラン・ライアンのようなオーソドックスな投手は、肩の縦回転の速度を上げるために上体を水平になる位まで倒します。
 ノーラン・ライアンよりも凄い投手とフレッド・リン(大リーグ新人王、MVP同時に受賞した選手、日米大学野球で山口投手と対戦した)に言われた元阪急ブレーブスの山口高志投手。
 究極のオーソドックスな投球フォームをしています。右手が左スネにぶつかって捻挫したこともあるそうです。身長は170センチしかありませんでしたが、足腰を鍛えて日本プロ野球史上最速とも言われる速球を投げました。ノーラン・ライアンは100マイルの速球を投げましたが、フレッド・リンの話しからして、山口投手の球速は100マイル(時速161キロ)を超えていたのではないかと思われます。(当時はまだ球速表示がなかった)
 山口高志投手の究極の投球フォーム
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②肩の横回転の速度を上げる(今アメリカで主流になりつつある方法)

 アトランタ・ブレーブスのクローザー、クレイグ・キンブレルの投球フォーム
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 肩の横回転の速度を極限まで高めた投げ方をする投手は、アトランタ・ブレーブスのクレイグ・キンブレルではないかと思っています。身長は180センチしかありませんが、山口投手と同じような体型をしており、足腰を鍛え上げ、下半身を十分に使って肩の横方向の回転が異常に速い投手です。あだ名はヒューマン・ロケット(人間ロケット)です。腕の角度は低く、水平より少し上がっている程度です。最速100マイル(時速161キロ)を叩き出します。2012年度の速球(フォーシーム)の平均球速は96.8マイル(時速156キロ)でした。
 山口投手が肩の縦回転の究極のフォームだとしたら、キンブレル投手は肩の横回転の究極のフォームだと言えます。
 2012年度の成績は3勝1敗、防御率1.01、42セーブ(45セーブ機会)、9イニングあたりの四球は2.0。9イニングあたりの三振(三振奪取率)は16.7と大リーグ最高。球が速くて制球も良い凄い投手です。制球が良いのは頭が大きく動かないせいだと思います。三振奪取率は大リーグ最速記録を持つチャップマンの15.3を上回っています。
 肩の横回転の速度を上げるためには、右投手の場合、体の重心を左足よりも背中側(1塁側)に倒す必要があります。結果として投球後半に体が1塁側に倒れます。
 ①の方法だと頭が前に倒れ視線が安定せず、制球が悪くなる欠点があるので、今大リーグで好成績を挙げている投手は②の方法に重点を置いて投げているようです。
 マリアーノ・リベラ投手の投球フォームは①と②の中間型だと言えます。

 マリアーノ・リベラ投手の投球フォームはオーソドックスなフォームと今アメリカで主流になりつつあるフォーム(速球派の投手に多い)の中間型です。このフォームで投げている選手には、2012ワールドシリーズに出場したジャイアンツのマット・ケイン、バリー・ズィトがいます。バリー・ズィトの投球フォームはマリア・リベラに良く似ています。
 
 2002年サイヤング賞投手バリー・ズィトの投球フォーム
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肩の縦回転、横回転とも速い投手の代表はチャップマン
 大リーグ最速左腕アロルディス・チャップマンの投球フォーム
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 シンシナティ・レッズのクローザー、アロルディス・チャップマン(左腕)は大リーグ最速記録105マイル(時速169キロ)を持ちますが、この投手は足のストライドが大きく(身長の120%)、肩の縦回転、横回転とも早く(10時から4時の方向に回転)、2012年度の速球(フォーシーム)の平均球速は98マイル(時速158キロ)でした。
 チャップマン投手の課題は制球で、ずい分と良くなりましたが、9イニングあたりの四球は2011年度(先発)は7.9、2012年度(クローザーに転向)は2.9と良くなりましたが、キンブレル投手(2.0)と比べると見劣りがします。足のストライドが大き過ぎる(球速にはプラス)ために頭の動きが大きいせいだと思われます。

コメント

  1. 匿名 より:

    すごい
    わかりやすい記事ですねl
    リベラの素直なフォームは大好きです

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