- 初心者はいきなり自分の憧れのプロ野球の投手を真似してもうまくいかない
- ピッチングの基本モデル、サッチェル・ペイジ大リーグデビュー時の投げ方
- サッチェル・ペイジのピッチングから実践的なコツを、考える
- ピッチングのチェックポイント(前足を着地した時の形、前足が地面に触れ、全体重がまだかかっていない段階)
- 前腕が地面に垂直になっていること
- 前腕が地面に垂直になっていないと怪我をしやすくなります
- 前腕が地面に垂直にならない(コッキングのタイミングの遅れ)原因
- 肘が逆L字になっている
- 肩甲骨に意識を置く意味
- グラブ側の腕、脚、足の動きでピッチングは決まる
- なぜ前足を着地してから、臍から下を動かさないようにするのが良いのか?
- 臍から下を動かさないようにするためには、体の重心の延長線上に着地する
- 骨盤の回転を速くするためには、逆に骨盤を回転させないようにすることが必要
- ピッチングの際に、両腕を前後に広げ「大の字」を作ることの意味
- 体の動かし方には大きく分けて、①縦回転、②横回転がある
- ①横回転
- ②縦回転
- ③体の軸の伸展
- ピッチングの際の腕の角度は何で決まるか?
- 体を鞭のようにしならせて使うことの意味
- 関節、体幹部の筋肉の緊張の調整方法
- 運動連鎖について
- 腕を回転させるもうひとつの方法(慣性トルクの利用、コッキングにも利用可能)
- 慣性トルクの利用(縦回転)
- 実例:ウォーレン・スパーンWarren Spahn
- 生まれ:ニューヨーク州、バッファロー
- 慣性トルク(針金に結んだ5円玉を回転させるメカニズム)
- 実際は、5円玉の位置にあわせて、手を動かしているわけではなく、手の動きにあわせて、自動的に5円玉が動いています。
- 慣性トルクの説明(縦回転)
- 慣性トルクの利用(横回転)
- ボブ・フェラー
- カルロス・マルティネス
- アロルディス・チャップマン
- クレイグ・キンブレル
- 実例:ボブ・フェラーBob Feller
- 横回転主体のピッチング①
- 実例:カルロス・マルティネスCarlos Martínez
- 横回転主体のピッチング②
- 縦回転が主体のウォーレン・スパーンと横回転が主体のボブ・フェラー、カルロス・マルティネスとの比較
- 慣性トルクの利用方法のまとめ
初心者はいきなり自分の憧れのプロ野球の投手を真似してもうまくいかない
速球派投手で一度は真似をしたくなる投手の名前を挙げてみましょう。
頭に浮かぶ有名な投手は、アロルディス・チャップマン、クレイグ・キンブレル、ペドロ・マルティネス、ノーラン・ライアン、ランディー・ジョンソン、ボブ・フェラー、サッチェル・ペイジ、第二次大戦以前の投手では、レフティー・グローブ、ウォルター・ジョンソン。歴史に残る投手というのは、みんな個性的な投球フォームをしています。
この中で、初心者でも参考になり、手本になりそうな投手は、まず第一にサッチェル・ペイジ。次に、レフティー・グローブです。
コントロールの良い投手と言えば、グレッグ・マダックスの名前がすぐに浮かびます
その他の投手で、マダックスと少し似たタイプの投手は、マイク・ムッシーナです。
特に、近年の腕がしなるような(肩関節の外旋が大きい)投げ方は無理です。
体の軸を中心に腕を回転させる横回転は,速い球を投げるのに肩に無理なストレスがかからないように思えますが、そのためには肘から先の前腕が地面に水平ぐらいになるのが理想ですが、これは長い間ボールを投げた経験がある人でないと無理です。長い間ピッチングを続けていると、上腕の可動域が広がるそうですが、一般人には無理です。
したがって、初心者は体の縦回転を取り入れた投げ方のほうが良いと思います。胸を張り、腕の角度はスリー・クウォーターぐらいがおすすめです。
一般に、速い球を投げる投手ほど肩関節の外旋可動域(テイクバックの際の回転方向)が大きい(lay backが大きい)のですが、これは長年ピッチングを続けてきた結果、体が変化してきた結果だというのが最近の研究で指摘されています。ピッチングを長い間続けていると、上腕骨の肩関節に近い部分がねじれるてくるようです。
利き腕と非利き腕では、利き腕のみ肩関節の外旋可動域が大きくなるそうです。逆に、肩関節の内旋可動域(腕がホームプレート方向に回転する方向)は減るそうです。外旋と内旋を合わせたトータルの可動域は増えてはいません。可動域が外旋側にずれただけです。
投げ方によってもおそらく外旋可動域の変化は違っているものと思われます。要は、腕が急激な外旋をするような投げ方を続けていると、肩関節の外旋の可動域が大きくなりますが、合わせて内旋の可動域が小さくなり、極端に内旋の可動域が小さくなると、脱臼しやすくなったり、上腕の受け皿の淵にあたる軟骨でできた関節唇に障害を及ぼすそうです。
このような、投げ方をすると肩、肘の故障をしやすいと言えます。
ピッチング初心者(野球経験が無い人)が目指すべき当面の目標
草野球で投手が務まるレベルに短期間で到達すること。
具体的には、怪我をしないように楽に投げられること。さらに、コントロール良く球速100kmを達成すること。
野球経験が無い人が、いきなり球速100kmはなかなか困難です。何か本格的にスポーツ経験があり、基礎体力がある方は可能かもしれません。小学生のとき、少年野球やったことのある方も、球速100kmは出るようです。
プロ野球選手で参考になる投手を選ぶとしたら、長く活躍して多くの勝ち星を挙げた、オーソドックスな投げ方をして、コントロールが良く、球速もそこそこあり、癖の無い、投手ということになります。リリーフ投手よりも先発投手から選びたいです。リリーフ投手の投げ方で、先発投手が務まるかは疑問の余地があります。年間のイニング数が少ないので、その投げ方で故障しないかどうかは不明だからです。
先発、中継ぎ、抑えといった分業制が一般的となった現在、今後大リーグでは300勝投手は出そうにないような気がします。現在、大リーグの現役で最も勝ち星を挙げているのは44歳のバートロ・コロンで、300勝には届きそうにありません。50歳まで続けられれば別ですが。次に勝ち星を挙げているのは、ヤンキースのCCサバシアで、現在36歳で237勝を挙げていますが、果たしてどうでしょうか。
さて、私がピッチングの初心者の方の参考にして欲しいと思った投手は?
長い間怪我をせずに活躍し、多くの勝利を挙げてきた投手で、コントロールの良い投手です。参考にしてと言ったのは、各人の体力、体の柔軟性とかは個性があるので、お手本の投手の投げ方を参考にしつつも、最後は自分で投げやすい投げ方をしたほうがよいからです。
理由は、最初に述べた通り、剛速球を投げるような投手は、肩関節の外旋可動域が広いのですが、それは裏を返せば、大きな外旋トルク(回転させる力)が大きくなるような投げ方とも言えます。だから、初心者は速さよりもコントロールが良い投げ方から始めたほうが良いのです。投げることを続けていけば肩の外旋可動域も少しづつ広くなっていきます。そして、筋力もついてくれば球速も自然と上がって来るはずです。
参考にしたい投手3人(みんなコントロールが非常に良い)
年齢の若い順に並べると、
前ヤンキースのマイク・ムッシーナ、
精密機械といわれたグレッグ・マダックス、
ニグロ・リーグ出身の伝説的なカリスマ投手のサッチェル・ペイジです。
マイク・ムッシーナはまだ大リーグの野球殿堂入りはしていませんが、2020年度に殿堂入りする可能性が高いと見られています。
①マイク・ムッシーナMike Mussina(三振も取れるが、打たせて守備を重視のピッチング)
右投げ:左打ち
身長、体重 (188cm, 86kg)
生年月日:1968年12月8日
生まれ:ペンシルバニア州、ウィリアムズポート
特徴
- 守備を重視のピッチングで、投球後すぐに守備に入れるように体をホームプレート方向に向けている。
- 前足を着地する直前に、左膝を伸ばすことで軸足の蹴りが反射的に行われている。
- グラブ側の腕をホームプレート方向に伸ばした後、体側に素早く引くことで、反射的に右側の肩甲骨を前に出している
圧倒的なピッチングスタイルではありませんでした。タイトルは最多勝が一度のみです。しかし、安定したピッチングで通算270勝を挙げました。ファームでの経験も短く、一年もいませんでした。ルーキーの年の途中から大リーグにデビューし、17年連続で2桁勝利を達成しています。
ルーキーの年の成績もアメリカンリーグの新記録です。通算で2813三振を奪っています。また、コントロールも非常に良く、四球率は2.0/9回です。三振奪取率は7.1で、三振奪取率と四球率の比率は3.58で非常に優れていました。球速は95マイルを出していたので155kmは出ていました。
40歳で引退したのですが、最後のシーズンに自己最高の20勝を挙げて潔く引退してしまいました。現役を続けていれば、殿堂入りの当確ラインと言われている300勝あるいは3000奪三振、の両方を達成できていたかもしれません。40歳を過ぎると、急激に成績が落ち、あちこちとチームを変えて記録達成するというのが通常のパターンですが、ムッシーナはそれが嫌で引退したそうです。さすがは、日本で言えば、東大、京大に相当するアメリカの名門スタンフォード大学を優秀な成績で卒業した秀才だけあって、潔い身の引き方です。大リーグ史上稀に見る、文武両道に優れた選手です。
ピッチング・スタイルは、グレッグ・マダックスと似ているところがあります。打たせて取る技巧派で、投球後、体をすぐにホームプレート方向に向けています。ゴールド・グラブ賞を8度獲得しています。通算18年間の経歴の中で、最初の年を除く17年連続で、最低11勝以上を挙げています。一方、マダックスは17年連続で15勝以上を挙げています。
②グレッグ・マダックスGreg Maddux(打たせて守備重視のピッチング)
右投げ:右打ち
身長、体重 (183cm, 77kg)
生年月日:1966年4月14日
生まれ:テキサス州、サン・アンヘロ
特徴
- 一度右肩を少し下げ、背中をわずかにホームプレート方向に向け、体の縦回転、横回転をおこなっているが、縦回転が主体である。腕の角度はスリー・クウォーターで、腕の角度は大きめの方がコントロールには優位なようです。
- 精密機械と呼ばれ、コントロールが非常に良く、打たせて取る技巧派の投手ですが、全盛期には三振も多く奪っていました。
通算成績355勝227敗、防御率3.16。1992年から1995年まで4年連続でサイ・ヤング賞を受賞。また、守備もよく大リーグ記録となる18度のゴールド・グラブ賞を受賞。ピッチングフォームも守備を前提としたスタイルで、投球後すぐに守備体制に入れるように、体をすばやくホームプレートのほうに向けています。四球率は1.8/9回です。三振奪取率は6.1で、三振奪取率と四球率の比率は3.37です。
マダックスは大リーグ史上で優れた投手のランキングで必ずベストテンに入る投手で、技巧派の中では1,2位を競っています。
③サッチェル・ペイジ
右投げ:左打ち
身長、体重 (190cm, 81kg)
生年月日:1906年7月7日
生まれ:アラバマ州、モービル
ニグロ・リーグ出身の伝説のカリスマ投手で、野球史上最高の投手の一人と言われている。黒人選手も大リーグでプレイできるようになり、野手のジャッキー・ロビンソンに続き、投手としては最初の黒人大リーガーになりました(大リーグが誕生してしばらくは黒人選手もプレイできていたが、途中から禁止となった。野球殿堂入りしたキャップ・アンソンCap Ansonという有名な野手が、黒人とのプレイを拒否したのが大きな原因のひとつとされている)。しかし、年齢はすでに42歳になっており、一説によると、実際の年齢はそれよりも上ではなかったかとも言われています。
コントロールも非常によく、球速は、火の玉投手のニックネームがあるボブ・フェラー以上で、野球史上最速(時速170キロを超えていた)とも言われている。オーバーハンド、サイドハンド、アンダーハンドとどこからでも投げることができたそうです。
1948年にクリーブランド・インディアンスに入団し、ボブ・フェラーとチームメートになっています。サッチェル・ペイジはリリーフとして活躍し、チームはワールド・シリーズを制覇しました。
1948年のピッチングの動画ではオーバーハンドで投げています。高齢のせいか、ストライドは小さく(同時に足が地面に接している)、軽く投げている印象です。姿勢も上体が垂直に近く、自然体です。
ピッチングの基本モデル、サッチェル・ペイジ大リーグデビュー時の投げ方
サッチェル・ペイジはピッチングの基本に忠実で、初心者向けのピッチングの基本モデルとして最適だと言えます。このときのピッチングはセット・ポジションからの投球になっています。42歳という高齢のせいもあり、力みのない省エネピッチングと言えます。
特徴
- 投球側の肘(右肘)を上げる動作(コッキング)は、グラブから右腕を落下させ、自然に振り子のように回転させるだけである。
- 右肘を上げるのではなく、逆に左の肩を下げる(力を抜く)ことで、右肩が上がり、結果、右肘が高く上がっている。
- 前足を着地してから、投球に最低限必要な部分だけが反射的に動いている。
- ストライドは小さく、両足が地面に接している。これは、下半身を地面に固定するのに役に立っている。
サッチェル・ペイジのピッチングから実践的なコツを、考える
これはあくまで、私なりにこうしたらいいのではないかという考えをまとめたもので、サッチェル・ペイジのピッチングからひらめいたものですので、本人の投げ方とは完全には同じではありません。自分なりにアレンジしたものと言えます。個人個人でみんな少しづつ投げ方が異なってくるのは自然な結果といえます。同じである必要はありません。要は、これだけは守らなければいけないポイントをつかむことが大事です。
セットポジションからの投球
姿勢は自然体で行う。極端に背中を丸くしたり、股関節、膝を曲げたりしない。すべて、軽く曲げる意識で行う。この方法が一番、体に無駄な力が入らず、省エネピッチングが可能で、コントロール、球速のバランスがよくなる気がします。
実際に投げる際に意識するポイント(右投手の場合で考える)
- 前足を上げながら、両手を左右に広げ、「大の字」を作りながら重心をホームプレート方向に移動。
- 前足を着地しながら右腕の前腕を垂直に立てる(コッキング)
- 前足に全体重がかかったら、臍から下は動かさない意識で、腰をひねりながら上半身をホームプレート方向に向ける。
- この際、同時に、左の肩の力を抜いて、落下させる。
- この際、同時に、右肩の肩甲骨はホームプレート方向に反射的に押し出されます。
慣れてきたら、前足に全体重がかかったら、左の肘を素早く体に引き寄せることで、右肩の肩甲骨はさらに速く、ホームプレート方向に押し出されます。これはちょうど、ボクシングのストレートパンチ、あるいは空手の正拳突きのイメージと重なります。肩甲骨を前に押し出す筋肉を前鋸筋といいますが、この筋肉を意識的に収縮させるのではなく、反射的に無意識で収縮させるのが、効率的で、コントロール、球速アップにつながるのではないかと思います。
ピッチングのチェックポイント(前足を着地した時の形、前足が地面に触れ、全体重がまだかかっていない段階)
前腕が地面に垂直になっていること
サッチェル・ペイジの場合
- 前足を着地したとき、上体がホームプレート方向に開かない(両肩を結んだ線がホームプレート方向に向いていること
- 右肘の位置が両肩を結んだ線よりも体の前に出ないこと
- 右肘の位置は両肩を結んだ線よりわずかに下がっていても良い(もし横回転を主体にする場合は肘は背中側に引いておく、ボブ・フェラー、カルロス・マルティネスのように)
マダックスの場合
右肘はそれほど高く上がっていない。背中側に大きく引かれてもいない。
マイク・ムッシーナの場合
前腕が地面に垂直になっていないと怪我をしやすくなります
例:ジョン・スモルツJohn Smoltz
右投げ:右打ち
身長、体重 (191cm, 100kg)
生年月日:1967年5月15日
生まれ:ミシガン州、ウォーレン
通算成績213勝155敗、防御率3.33 154セーブ
2000年、34歳の時にトミー・ジョン手術を行っています。しかし、2015年に大リーグ殿堂入り。現在、トミー・ジョン手術を行って、大リーグ殿堂入りした唯一の投手です。
前腕が地面に垂直にならない(コッキングのタイミングの遅れ)原因
肘が逆L字になっている
肩甲骨に意識を置く意味
肩関節は人体の中で最も可動域の広い関節ですが、それは肩甲骨の可動域が広いことによります。肩甲骨を動かさないで、上腕を動かしてみると、動ける範囲は非常に限られることに気がつくはずです。したがって、肩甲骨に対して相対的に上腕骨を動かすのは効率の悪い方法と言えます。肩の腱板等、柔らかい組織が回りの骨とぶつかり炎症を起こしてしまうからです。肩甲骨に対して上腕骨は動かさず、その代わりに肩甲骨を動かすのが効率の良い方法ではないかと私は考えています。
前足を着地したら、臍から下を動かさないで、臍を支点に肩甲骨をホームプレート方向に動かせば結果として、肘、手、指先に動きが伝わります。球速を上げるには、結局指先のスナップが不可欠です。
グラブ側の腕、脚、足の動きでピッチングは決まる
ピッチングにおいて、軸足の蹴り、投球側の腕の振りが大事なように思えますが、実際は、グラブ側の腕、脚、足の動かすのが主体で、軸足、投球側の腕の動きは、運動連鎖による反射で自動的に起こるようにするのが、効率的なピッチングかもしれません。
なぜ前足を着地してから、臍から下を動かさないようにするのが良いのか?
上半身をひねる際、重心のある臍の高さを中心に、ひねるのが普通(重心を動かすには大きな仕事が必要だから、重心は動かしたくない)ですが、物理法則から、上半身を動かせば下半身は逆に回転しようとします(反トルクによる:力の作用・反作用に半径を掛けたようなもの)。大きなトルクを得るには、結局、大地、地球を回転させようとする必要がありますが、臍から下が動いてしまうと、力が大地まで伝わらないで吸収されるので、結局上半身のひねりを速くすることはできないということです。早い話が、氷の上でピッチングをするとなると、上半身をひねるのは困難ということです。
臍から下を動かさないようにするためには、体の重心の延長線上に着地する
体の重心(だいたい臍の高さで、姿勢にもよりますが、臍の高さの胴体の真ん中あたり)はホームプレート方向に進みますが、その延長線上に前足を着地します。バランスが崩れて、重心の位置が3塁側、あるいは一塁側にずれた場合でも、その重心の進む方向の延長線上に着地します。この場合には、インステップ、アウトステップになります。無理してホームプレート方向に着地しない。そうしないと、地面から大きな抵抗を得られなくなり、臍から下が動いてしまいます。
骨盤の回転を速くするためには、逆に骨盤を回転させないようにすることが必要
臍から下を動かさないようにすると、股関節も反射的に回転しようとします。したがって、骨盤の回転を速くするには、逆に、一瞬、骨盤を回転させないように頑張る必要があるということです。豪速球投手を見ると、骨盤が速く回転する角度はほんの少しで、わずか30度ぐらいの範囲で素早く回転しているようです。ボールのリリース直前、肩甲骨が前に加速する時期、骨盤は正面を向いて一瞬止まります。
ピッチングの際に、両腕を前後に広げ「大の字」を作ることの意味
- バランスを取りやすい
- 上体が回転しすぎて、体が開くのを防ぐ
- 腕の重力により、体の縦回転をしやすくする
体の動かし方には大きく分けて、①縦回転、②横回転がある
体の横回転はバッティングでは主体となる動かし方です。ピッチングがバッティングよりもさらに難しいのは、横回転に加えて縦回転も利用する度合いが大きいからです。サイドハンドスローはオーバーハンドに比べて、体の横回転が主体ですが、縦回転も利用しています。ホームプレート方向への重心移動も広い意味では縦回転と見ることができます。
①横回転
股関節の回転(外旋、内旋)、腰の回転(ひねり)、肩甲骨の回転
②縦回転
走り幅跳びの反り跳びのように、胸を張るように上体を後ろに反らして、反りを前方に戻す動き(これは体幹部の動き)。股関節の屈伸、伸展。膝関節の屈伸、伸展。重心移動も縦回転の一つです。
③体の軸の伸展
これは横回転、縦回転以外の体の動かし方です。背筋、腹筋、股関節、膝関節、足間接、足の指それぞれを動かし、体軸方向の長さを、縮めてから伸ばす動きです。ジャンプするときの体の動かし方です。アロルディス・チャップマンやクレイグ・キンブレルはこの体の使い方をしていると言えます。
体の軸の伸展は縦回転、横回転いずれにも利用できる体の動かし方と言えます。
ピッチングの際の腕の角度は何で決まるか?
肩甲骨と上腕の間の関節の移動で決まる平面内で、腕は、慣性により、一直線になろうとします。関節面が地面に垂直であれば、腕の角度は地面に垂直になろうとします。地面に平行であれば、サイドハンドになります。したがって、肩甲骨をそのように動かせばよいことになります。
体を鞭のようにしならせて使うことの意味
鞭のように使うとは、体の各部分を同時に動かすのではなく、指先から最も遠い部分である足先からの回転運動を、加速、減速を繰り返しながら、指先に効率よく伝えて行くことです。体の運動量を質量の小さい指先のほうへ移行させることです。質量の小さいほうが速く動けるので、体の持っている運動量を指先に伝えてゆくのです。つまり、指先のスナップを効かすこととも言えます。効率よく体の中で動かすべき部分は、肩甲骨近くの部分であると言えます。前足を着地して動かしたいのは肩甲骨近くの部分で、その他は動かさないように意識することが大事です。(下のボブ・フェラー、カルロス・マルチネスの動画を見ればよくわかります)しかし、上に述べたように、実際に意識して動かすべき部分は、グラブ側の腕と、脚、足で、投球側の足、脚、腕、肩等は反射により自動的(運動連鎖で)に動かすべきです。
関節、体幹部の筋肉の緊張の調整方法
関節を動かす筋肉は互いに反対方向に動かす筋肉、主動筋と拮抗筋があり、それぞれが緊張している度合いにより、関節の硬さが変わってきます。この関節の緊張の度合いをどう、調整すればいいのでしょうか。前足を着地するまでは弛緩させておき、前足を着地してからはある程度の緊張をさせて、動きが素早く伝わるようにしておく必要があります。これは体幹部についても言えます。たとえば、股関節、腰の回転を素早く、肩甲骨に伝えるには体幹部の筋肉を緊張させて、体を硬いバネのように緊張させておく必要があります。
運動連鎖について
体の動きは、グラブ側の足から投球側の指先へと反射的に伝えていくようにするのが効率的な体の使い方で、これを運動連鎖と言いますが、この動きを分析すると、体のある部分を例にとると、この部分よりグラブ側に対して、投球の指先側は相対的に、投げたい方向と逆方向に回転しています。この逆方向の回転の加速度がある一定の値を超えると、筋肉は伸ばされ、伸張反射により自動的に収縮します。これが、運動連鎖です。運動をこの運動連鎖によって自動化すれば、頭で考えなくても体は自動的に動きます。みんな、歩く、走るとかの運動を、普段、意識することなしに行えるのもこの運動連鎖のおかげです。
腕を回転させるもうひとつの方法(慣性トルクの利用、コッキングにも利用可能)
回転運動は一定の速度で回転しているときには、力は必要ありません。が、加速する場合には、例えば、車のエンジンの回転(rpm:1分あたりの回転数で通常表現される)を示すタコメーターの針が、レッドゾーンに向けて回転する場合には、力(回転の場合には、正確にはトルク:回転力あるいは力×距離)が必要です。ピッチングの場合も同様で、投げはじめの際、腕がセカンド方向に引っ張られ力を感じますが、これが慣性力で回転の効果を表現するにはトルクという言葉を使います。
伸張反射による運動連鎖によって腕を回転させるメカニズムの他に、コッキング、ソフトボールのブラッシング等に利用されている、慣性による回転トルクの利用があります。
物体の作用点を動かす(加速、減速を行う)際、作用点が重心を通らない場合、回転を生み出すことができます。
両肩を結ぶ線が地面にずっと平行より(上体の軸が地面に平行なままよりも、上体の軸が最初後傾で後に前傾すると、慣性により腕が回転し、これはコッキングにも利用できます。
慣性トルクの利用(縦回転)
実例:ウォーレン・スパーンWarren Spahn
通算363勝(大リーグ歴代6位)、20勝以上を12回記録
3年間兵役に就いていたので、25歳から大リーグで本格的に活躍しました。兵役がなかったら、400勝に届いていたでしょう。
左投げ:左打ち
身長、体重 (183cm, 79kg)
生年月日:1921年4月23日
生まれ:ニューヨーク州、バッファロー
縦回転主体のピッチング
肩、肘に無理な力がかかっていない投球フォームです。肩関節に外旋、内旋のトルクがかかっていないように見えます。左肘関節が伸展するような慣性トルクが働いています。
慣性トルク(針金に結んだ5円玉を回転させるメカニズム)
最初は楕円状に手を動かしますが、途中から直線状に往復させるだけで、回転が加速します。右に引くときの5円玉の位置はだいたい、下図の通りです。左に動かすときの5円玉の位置は、その反対側(180度)です。
実際は、5円玉の位置にあわせて、手を動かしているわけではなく、手の動きにあわせて、自動的に5円玉が動いています。
このメカニズムはピッチングに利用できます。下の投球の基本大原則は、このメカニズムをコッキングに利用する際のメカニズムの詳しい説明です。
このメカニズムはボールのリリース直前の肩関節、肘関節の減速により、手のスナップを速くするのにも利用できます。
慣性トルクの説明(縦回転)
上のウォーレン・スパーンは、投球のコッキング(投球側の腕を高く持ち上げる)の部分では、縦回転の慣性トルクを利用していると言えます。投球側の肩を最初下げる意味は、縦回転の慣性トルクを利用するためとも言えます。
上の図は、縦回転での説明になっています。投球側の肩を最初下げ、体の軸を後傾からホームプレート方向への前傾へと傾けることで、上の図のように、肩関節の位置が曲線を描くので、慣性トルクがずっと使えます。これを利用したほうが、コッキング(投球準備動作:肘を両肩を結んだ線近くまで上げ、前腕を地面に垂直に立てること)が楽に行えます。
慣性トルクの利用(横回転)
球速をアップするには体の横回転は効果的ですが、コントロールはやや悪くなる傾向があります。身長が6フィート(183センチ)でも球速100mph(時速163キロ)を投げれる可能性があります。
ある程度、投手の経験がある方向きの投げ方といえます。腕の角度が地面と平行から少し上ぐらいのピッチング(サイドハンド)も初心者には向いていません。
このような投げ方は、最初に述べたように、肩関節の最大外旋(lay back)が大きくなる投げ方だからです。そして、肩関節の最大外旋(lay back)は横回転が速いピッチングを長く続けると大きくなる特徴があり、野球経験のない方は、当然、肩関節の外旋可動域が小さいからです。野球以外の投げるスポーツ経験者なら肩関節の外旋可動域は大きいかもしれません。
ボブ・フェラー
カルロス・マルティネス
アロルディス・チャップマン
クレイグ・キンブレル
実例:ボブ・フェラーBob Feller
最速107.9マイルを記録した、大リーグの火の玉投手、通算266勝162敗
右投げ:右打ち
身長、体重 (183cm, 84kg)
生年月日:1918年11月3日
生まれ:アイオワ州、バン・メーター
横回転主体のピッチング①
実例:カルロス・マルティネスCarlos Martínez
セントルイス・カージナルス所属
右投げ:右打ち
身長、体重 (183cm, 84kg)
生年月日:1991年9月21日
生まれ:プエルトリコ、コリナス・デル・スル
最高球速101.3mph、平均96mphのフォーシームを投げる
横回転主体のピッチング②
縦回転が主体のウォーレン・スパーンと横回転が主体のボブ・フェラー、カルロス・マルティネスとの比較
ウォーレン・スパーン場合には、体幹部の脊椎および胸の張り(肩甲骨の背中側への回転)がみられますが、ボブ・フェラー、カルロス・マルティネスの場合には、体幹部の脊椎および胸の張り(肩甲骨の背中側への回転)はあまり見られません。
慣性トルクの利用方法のまとめ
慣性トルクの利用方法には縦回転と横回転がありますが、実際には両方が使われており、上の例で言えば、ウォーレン・スパーン、グレッグ・マダックス、サッチェル・ペイジは縦回転主体、ボブ・フェラー、カルロス・マルティネスは横回転主体のピッチングです。
マイク・ムッシーナは、どちらかといえば、縦回転優位ですが、縦回転と横回転をバランスよく使ったタイプです。
体の動かし方には①縦回転、②横回転、③体の軸の伸展の3通りがありますが、③体の軸の伸展を使った投げ方をしている投手は、
マイク・ムッシーナとカルロス・マルティネスです。いわゆる、軸足で地面を強く蹴って、体がまっすぐに伸びる(特に背筋がまっすぐに)投げ方です。大リーグを代表するクローザーのアロルディス・チャップマン、クレイグ・キンブレルもこのタイプと言えます。
まとめ
- ピッチング初心者は、肩関節の可動域が狭いのでスリー・クウォーターぐらいの腕の角度で投げるのがお勧めである。
- 体の縦回転と横回転をバランスよく使う投げ方になります。
- 上体の胸を張り、肩甲骨を後ろに回転させることで、上腕の外旋可動域の狭さを補うことが有効です。
- 上体は最初少し後傾(右肩を下げる)させたほうがコッキング(右腕の前腕を地面に垂直に肩の高さぐらいまで上げること)が楽に行えます。縦回転の慣性トルクの利用するためです。
- 前足を着地する直前に、膝を伸ばし蹴るようにすることで、軸足の蹴りが反射的に行われます(ピストルの発射、ロケットの噴射の原理により)。意識して軸足を蹴ろうとしないこと。
- 前足を着地させたとき、上体はホームプレート方向に開かない(上体が前を向くこと)。そのためには、グラブ側の腕を前にまっすぐ伸ばすと、体が回り過ぎないので有効である。
- 前足を着地させたとき、右肘は両肩を結んだ線よりも前に出てはいけない。横回転を少し増したい場合には、肘の位置を少し背中側に引く。さらに、上体の向きを最初、少しホームプレートから見て背中が見えるように向けると良い。肘の位置は両肩を結んだ線よりも低くても良い。
- 前足を着地させてから、グラブ側の肘を体側に脇を締めるように素早く引くことで、投球側の肩甲骨が前に押し出されます。
- 前足を着地させて全体重をかけてからは、臍から下の部分を動かさないようにする。
骨盤は動かないように我慢する意識を持つことが大事です。 - コントロールで大事なポイント
頭が大きく速く動かないこと。手に持ったボールは、ホームプレートに向かう垂直な面内を動かす意識を持つこと。ボーリングやソフトボールと同様である。腕の回転が逆方向になる点が違うだけです。
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