上原投手は2013年7月12日のアスレチクス戦で9回に3者三振を奪い、今シーズン8セーブ目を挙げました。
上原投手の今シーズンの投球フォームで昨年までと変わった点は、前足を着地してから膝が伸びたときに前脚の軸が垂直よりも一塁側にいつも傾いていることです。昨年までもそいうい傾向はあったのですが、今年はすべての投球でそうなっており、また軸の傾きも昨年よりも大きくなっています。
上原投手の投球フォームは、巨人時代から大リーグに移籍して変化しましたが、大リーグに移籍してからも徐々に変化しています。これについては一度触れたことがありますが、今回は重力を利用した投球フォームという視点で分析したいと思います。
今回取り上げた投球フォームは、アスレチクス戦で8セーブ目を挙げたときのものです。2番目の打者7番ジョシュ・レディックJosh Reddickを90マイルの外角低めのフォーシームで見逃し三振に打ち取ったときの投球フォームです。
上原投手の投球フォームの特徴
①ワインドアップで、最初、体の向きは3塁側よりも少し前を向いてる。
右足の爪先の向きが投球プレートに平行と言うよりも少しホームプレート方向を向いている。クイックでボールを投げるのに適しています。
②テイクバックが小さく、肘は両肩を結ぶ線よりもかなり低めで、肘を背中側に引かない。
そのため腕が体に隠れて突然ボールがリリースされるので、思ったよりも早くボールが来て、打者は打つタイミングが遅れ振り遅れてしまう。球速は89から90マイル、時速143から145キロ程度しかありませんが、相手の打者はファウルか空振りをしてボールを捕らえるのは非常に困難です。
特に今シーズンは左打者に対してはほとんど打たれていません。
今シーズン前半7月14日現在(オールスターゲーム前)の成績は、
2勝0敗、防御率1.70、被打率.160、WHIP0.76です。
右打者、左打者ごとの成績は
左打者:防御率1.11、被打率.110、WHIP0.62
右打者:防御率2.50、被打率.221、WHIP0.94
また、右肩にも無理な力がかかっていません。
③前脚を高く上げ、下ろすことで位置エネルギーを回転エネルギー(骨盤の回転と上体の前への回転)に変えている。
前脚の膝を胸に着くぐらい高く上げ、曲げた左膝を伸ばしながら、重力を利用してホームプレート方向に振り下ろすことで、骨盤がゆっくりと横に回転してゆき肩の横回転が発生し、上体は2塁方向に少し倒れた状態から垂直に起き、肩の縦回転が発生します。肩の縦回転により腕をスムースに上に引き上げることが可能となり、肩に無理な力がかかりにくくなります。
そのため、流れるようなスムースな投球フォームになっています。
一方、骨盤を回転させないように前側の股関節でリード(タメを作る)する方法は、重力をうまく利用できず、上体が後傾した状態で腕を担ぎ上げるようになるので、肩にも肘にも負担がかかる投げ方だと言えます。
大リーグで300勝以上挙げた大投手はみんな上手に重力を利用して、効率よく投球を行うことで、怪我なく長く活躍できたのでしょう。昔のハイキック投法は重力を有効に利用した投法であり、肘、肩に怪我をしにくいと言えます。ただ、クイックな投球ができないだけであり、現在でも投球の基本となる投げ方であり、良い所を十分に活用することが非常に大事だと思います。
重力を利用しつつ、軸足側の股関節から下の関節を有効に利用して軸足の蹴り出しを強くすることが現在、大リーグで活躍している投手の特徴だと言えます。
投球とは結局、肩の縦回転、横回転の速さをいかに効率よく高めるかにあります。回転運動を考える場合には慣性(慣性は惰性の元であり、質量の元です)、トルク(回転力、力のモーメント)、慣性モーメント(回転のしにくさを表す)の概念が大事になってきます。
怪我をしないで効率よく投げるには、重力に逆らわないで、重力をトルクとして利用する。
急加速、急ブレーキは避ける。
慣性モーメントをできるだけ小さくするよう、体の重心の位置に気をつける。つまり、前脚の軸が地面に垂直から、一塁方向に傾く(腕を横に広げ高速で回転して発生する遠心力に対抗するため)。上原投手のように骨盤の回転が速い投手ほど軸の傾きは大きくなります。肩の縦回転が優位な投手は軸の傾きはなくなり、ほぼ地面に垂直となります。
④軸足側の膝の向きが素早くホームプレート方向側に向くので、軸足を強く蹴れる。
そのため骨盤の回転が速い。
⑤前足を着地した後、曲がった左膝をおもいきり伸ばしている。
左の股関節が前に移動するのを完全に止め、骨盤の回転を加速している。また、上体が前に倒れる回転も加速させている。つまり、右肩の横回転、縦回転とも加速させているので、右肩の回転方向は時計でいうと2時から8時方向になっている。腕の角度も遠心力で自然とそうなっている。右肩が移動する軌跡を含む平面内(下りの斜面)を右腕は移動し、上体が前傾することで重力の作用で落下するように斜面を回転しながら落下してゆく。
2013年7月12日のアスレチクス戦、打者はジョシュ・レディックJosh Reddick
横からの映像
重力の利用を中心に考えた投球段階の分類
①前脚を上げる
前脚を高く上げることで脚に位置エネルギーが蓄えられます。
②前脚をホームプレート方向に振り下ろす
前脚をホームプレート方向に振り下ろすことで、脚に蓄えられた位置エネルギーを運動エネルギーに変えます。
位置エネルギーには骨盤を回転させる横方向の回転エネルギーと上体をホームプレート方向に倒す縦方向の運動エネルギーがあります。
③軸足の蹴り出し
右の股関節が曲がっていて、右の脛が前傾して、膝の皿がホームプレート方向に45度ぐらい回転していることが強い蹴り出しには必要。
④フォロースルー
フォロースルーは大きくしなければいけません。
運動エネルギーを得た腕をスムースに減速することは怪我を防ぐ上で非常に大事です。急激に腕の動きを止めると肩に無理な力がかかってしまいます。
コメント
阪神の藤浪晋太郎投手(右投げ)のフォームがクロスステップ(前足である左足が軸足である右足とホームを結んだ直線より三塁側に着地するフォーム)であることの、問題点がyahooのニュースで指摘されていました(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130805-00010000-wordleafs-base)が、管理人様はこれについてどのようにお考えでしょうか。
こちらの記事をずっと読んできた私としては、やりすぎなクロスステップはともかく、前足の着地が利き手側に寄るのは、慣性モーメントを考えても大きな問題ないように思われます。
むしろ日本球界で一般的とされている位置よりは三塁側に着地するほうがよいとすら思います。
記事ではクロスステップは股間接は三塁側に向かうのに、腕はホームベースに向かうからそれによって不必要なひねりが生まれ、肩や肘に負担がかかるとありますが、指摘されている部位も大雑把だし、メカニズムも曖昧で納得できません。
よろしければこれについて解説して頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。