2012年度のナショナルリーグ・サイヤング賞を受賞したニューヨーク・メッツのナックル・ボーラー、ディッキーは今年突然37歳にして凄い成績を残しました。6月には2試合連続で1安打ピッチング、三振も12、13個と2試合連続で2桁を記録しました。
ディッキーの1安打ピッチング、三振12個、無四球(動画)
Dickey’s one-hitter06/13/1201:55
6/13/12: R.A. Dickey dominates the Rays with a one-hitter, striking out 12 en route to his 10th win of the season
2012年6月13日:ロバート・アレン・ディッキーは1安打ピッチングで(タンパベイ)・レイズを圧倒します。三振を12奪い、シーズン10勝目を挙げます。
ディッキーの今シーズンの成績は
20勝6敗、防御率2.73、奪三振230、完投5、完封3でした。
ディッキー投手は1996年に、ダルビッシュ投手の所属するテキサス・レンジャーズに1位指名され、その後10年間メジャーとマイナーを行ったり来たりしましたが、良い成績を残せずナックルボーラーになるよう勧められ2005年から練習に励みました。2006年にメジャーに昇格してナックルボールの成果を試しましたが、3イニングで6ホーマーという大リーグ記録を作ってしまい、その後レンジャーズで投げることはありませんでした。
その後も成績は一向に良くなりませんでしたが、2010年に現在のニューヨーク・メッツに移籍してから好成績を残すようになりました。
2010年の成績は11勝9敗、防御率2.84で、初めて2桁勝利を記録しました。2011年度は8勝13敗、防御率3.28でした。
そして今年2012年度は上に記した通り自己最高の成績を残しました。
ディッキー投手はどうやって好成績が残せるようになったのでしょうか。その秘密に迫ってみたいと思います。
ディッキーの特徴は、ナックルボールの球速が今までのナックルボーラーに比べて速く、80マイル(時速129キロ)を超えることと、制球が良いことです。ディッキーがナックルボールで三振を取る時には球速は80マイルを超えています。この2点が改良されてから良い成績を残すようになったのですが、ナックルボールの球速、コントロールが時と共にどう変化してきたのかを中心に見てみましょう。
ERA(防御率)
防御率は2010年にメッツに移籍してから良くなっています。
K/9(三振奪取率/9回)
三振奪取率は今年2012年に飛躍的に高くなっています。
BB/9(四球率/9回)
四球率は2010年から急激に下がっています。
K/BB(三振と四球の比率、1人四球を出すまでに何人三振を取れるか)
三振と四球の比率は2010年から飛躍的に良くなっています。
ナックルボールの球速の変化
2010年からナックルボールの球速が突如アップしています。最高球速は2010年、2011年、2012年と変化はありませんが、最低球速が変化しています。70マイル以下の球速は使わない方が成績は良いようです。球速の変化は最低72マイルから最高82マイル程度の幅で球速の変化をつけたほうが良い結果が出るようです。これはちょうど直球とチェンジアップのスピード差に相当します。
ナックルボールは指を立ててボールに回転をかけない投げ方をするのでボールが不規則に大きな変化をします。ナックルボールの回転はリリースからホームベースに到達するまでに0.5から1.5回転しかしません。
ディッキーのナックルボールのグリップ
親指は縫い目の上に置き、人差し指と中指の爪を立て、薬指は軽く沿え、ボールを押し出すように投げます
ナックルボールの垂直方向の変化、黄色KNがナックルボール
2012年度は垂直方向の変化の幅が大きくなっています。下に沈むボールの変化が大きくなっています。変化0は重力と同じ落下を意味します。10インチは重力による落下よりも25.4センチ浮き上がることで、直球(フォーシーム)と同じ程度重力に逆らうことを意味します。ー10インチは縦カーブと一緒で、重力による落下よりも25.4センチボールが大きく落下します。
浮いたり沈んだりの変化が2012年度は一段と大きくなっています。
2008年度のナックルボールの水平方向、垂直方向の変化
無重力状態での変化(捕手から見たボールの変化)
2試合連続 1安打ピッチングをして絶好調だった2012年度6月(5勝0敗、防御率0.93)の水平方向、垂直方向のナックルボールの変化、1inch=2.54センチ、10inch=25.4センチ、黒点KNがナックルボール、赤点FFは直球(フォーシーム)
無重力状態での変化(捕手から見たボールの変化)
重力の落下を加えたボールの変化(捕手から見たボールの変化)
2010年度から成績が急に良くなったのは投球フォームに大きな変化があったせいかもしれません。
ボールのリリースポイントに大きな変化がありました。特に水平方向のリリースポイントが体に近くなってから成績が良くなっています。
絶好調だった2012年度6月のリリースポイント(捕手から見た位置)
2008年度のリリースポイント(捕手から見た位置)
ナックルボールは上下左右どっちにどれだけ変化するか予測がつきません。それにスピードの変化もつけてきますので、非常に打ちにくいのだと思います。また、ディッキーのナックルボールは速いので打者はバットコントロールをする時間が少なくなり余計に打ちにくいのだと思います。緩いナックルボールほど打ちやすいので70マイル以下のナックルボールは投げなくなったのだと思います。ボールの変化量も今年は昨年以上に幅が大きくなっており、それらがトータルに作用して今年大活躍できたのでしょう。